アングル:中国人民銀、関税懸念のなか通貨安定に注力 元安見込む企業と家計

中国の企業や投資家は米国との貿易摩擦が長引く中、人民元が当面は安定して推移し、やがて下落すると見込んでいるようだ。写真は元紙幣。2017年5月撮影(2025年 ロイター/Thomas White)
[8日 ロイター] - 中国の企業や投資家は米国との貿易摩擦が長引く中、人民元が当面は安定して推移し、やがて下落すると見込んでいるようだ。外貨預金や通貨スワップの増加がそれを示している。
一方、中国人民銀行(中央銀行)は元相場を安定させようと努力している。元が突然どちらかの方向に動けば、企業や家計は好ましい元水準を捕らえるため、あるいは損失を食い止めるために、何十億ドルもの売りの波を引き起こす可能性があるためだ。
トランプ米大統領が多くの国に対する懲罰的な関税を発表した4月2日以降、元は対ドルで1.5%上昇。同じ期間にタイバーツ、韓国ウォン、台湾ドルなどの通貨が6─14%上昇したことに比べると控えめだ。
元は2025年の大半を1ドル=7.15─7.35元の狭いレンジで推移。貿易加重ベースでは過去4年半で最も弱い水準となった。
経済成長の2割を占める輸出部門は、6月前半に米中間で合意された最新の貿易枠組みにより、最大55%もの米国の輸入関税に直面している。
中国は当初100%を超える関税を課された。トランプ政権が4月から5月に課した追加関税を復活させないよう、8月12日までに米国と合意しなければならない。
SEBのアジア戦略担当責任者ユージニア・ビクトリーノ氏は「米国の貿易政策による外部リスクを考慮すると、中国は米国以外の市場に対して非常に競争力のある通貨を維持する必要がある」と述べた。
<人民銀のシグナル>
5月以降、人民銀は日々の基準値管理で元の過度な上昇を望んでいないことを示している。
また、本土投資家が低利回りのオンショア市場から香港の株式や債券に資金をシフトさせることに前向きな姿勢を示しており、一部のアナリストは元に売り圧力をかけるためではないかと疑っている。
当局は6月、「適格国内機関投資家(QDII)」の海外資産への投資枠として新たに30億8000万ドルを承認。人民銀は8日、本土投資家による海外債券への投資拡大を支援すると表明し、本土と香港間の債券相互取引制度「債券通(ボンドコネクト)」の対象をノンバンクにも拡大すると明らかにした。
人民銀は先週、一部の金融機関に対し、最近のドル安に対する見解も尋ねている。
人民銀はロイターのコメント要請に応じなかった。
INGの大中華圏担当チーフエコノミスト、リン・ソン氏は「人民銀はかなり以前から通貨の安定を優先しており、ここ数年は急激な元安を防ぐことに焦点が当てられてきたが、これは現在見られるような元高ペース管理にも当てはまる。私の今年の予想レンジは7─7.4元で、このレンジを年内維持する可能性が高いと思う」と語った。
ドル資産の利回りが高いことから中国企業によるドル買いは続いている。
人民銀のデータによると、今年1─5月の外貨預金残高は前年同期と比べ19%増え、5月末には9901億ドルに達した。ロイターの計算では、家計や企業がドルを売って元に交換する意欲を測る指標は低下している。
元安による潜在的な利益を逃すことを警戒して輸出企業は通貨スワップを利用している。規制当局のデータによると、商業銀行は1─5月に顧客勘定で2775億ドルの通貨スワップを実行、これは前年同期比で10%増えている。