ニュース速報
ワールド

アングル:返り咲きトランプ氏、米連邦最高裁の保守派基盤を一段と強化か

2024年11月07日(木)17時37分

11月5日の米大統領選で返り咲きを決めた共和党候補のトランプ前大統領は、1期目の任期中に連邦最高裁判事を指名できる職権を駆使して最高裁を大幅に保守化させたが、2期目には保守派判事の割合を一段と高める機会を手中にしそうだ。米最高裁前で10月撮影(2024年 ロイター/Kevin Mohatt)

John Kruzel

[ワシントン 6日 ロイター] - 5日の米大統領選で返り咲きを決めた共和党候補のトランプ前大統領は、1期目の任期中に連邦最高裁判事を指名できる職権を駆使して最高裁を大幅に保守化させたが、2期目には保守派判事の割合を一段と高める機会を手中にしそうだ。さらに、高齢の保守派判事3人を若い保守派判事に入れ替え、同派の優勢を長期間維持しようと図る可能性もある。

保守派判事はクラレンス・トーマス氏が76歳、サミュエル・アリート氏が74歳で、ジョン・ロバーツ長官はトランプ氏が来年1月20日に大統領に就任する直後に70歳を迎える。いずれも共和党の大統領に指名された。最高裁判事は終身制だ。専門家によると、この3人の判事はトランプ氏の大統領就任と共和党による上院の過半数議席獲得を受けて引退を決断する可能性がある。

「トランプ氏の2期目の任期中にトーマス氏かアリート氏、あるいは2人がいずれも退任する可能性は高く、もしかしたら長官も退任するのではないか」と、コーネル大学法科大学院のゴータム・ハンス教授は予想する。その場合、トランプ氏の下で任命された判事が後任候補のリストに載る見通しだという。

また、トランプ氏の在任中にリベラル派判事3人のうち1人が退任すれば判事の構成を保守派7人、リベラル派2人として、さらに保守派を増やすことができる。リベラル派で最年長のソニア・ソトマイヨール判事は70歳で、1型糖尿病を患っている。

連邦最高裁判事は大統領が指名し、上院で過半数の承認を得る必要がある。

トランプ氏が1期目の大統領に就任した2017年当時の最高裁は、アントニン・スカリア判事が16年に亡くなったことで、保守派とリベラル派の判事がいずれも4人と勢力が拮抗していた。トランプ氏は17年にニール・ゴーサッチ氏、18年にブレット・カバノー氏、20年にエイミー・コーニー・バレット氏の保守派3人を判事に指名。現在は保守派が6人、リベラル派が3人の構成となっている。

<肩身狭まるリベラル派>

バイデン大統領は22年にケタンジ・ブラウン・ジャクソン氏を最高裁判事に指名したが、任期中の判事指名は1人だけ。しかも前任者のスティーブン・ブライヤー氏もリベラル派だったため、リベラル派の判事を増やすことはできなかった。

近年、最高裁のリベラル派判事3人は主要な判決で少数派の反対意見を述べる立場に追いやられることが多くなっている。

イリノイ大学シカゴ校の法学教授スティーブ・シュウィン氏は、トーマス氏、アリート氏、ロバーツ氏が退任を決断するかどうかは、3人がそれぞれ自分の仕事をやり終えたと感じるかどうかにかかっていると見ている。その観点からすると、トーマス氏は退任しそうだが、アリート氏ははっきりせず、ロバーツ氏についてはもっと不透明だという。

ハーバード大学ロースクールの教授であるマーク・タシュネット氏は、3人のうち誰かが引退すれば、トランプ氏は保守的な実績を持ち「オリジナリズム(原意主義)」と呼ばれる、憲法や法令の制定者の意図や解釈を忠実に守るという司法哲学に忠実な考え方をする若い判事を指名する可能性が高いと見ている。

その場合、後任も保守派なので短期的な影響は小さいが「新たに着任した判事は在任期間が長いため、将来的に民主党の大統領がリベラルな政策を推進しようとする際にも最高裁は保守派優勢の状態が続く」という。

保守派判事はゴーサッチ氏が49歳、カバノー氏が53歳、バレット氏が48歳で任命されており、今後数十年にわたり判事に留まりそうだ。

トランプ氏と共和党は連邦最高裁だけでなく連邦の司法制度全体で保守派色を強める機会も手にする。トランプ氏は1期目に234人の判事を指名して承認を得ているが、これは単一任期の指名数として歴代2位だ。

<ソトマイヨール判事の去就>

リベラル派のソトマイヨール判事に対しては民主党が上院で過半数議席を握っていた22年以降、左派から引退を求める声が上がっている。若いリベラル派判事を連邦最高裁に送り込むことが狙いだが、ソトマイヨール氏に引退を検討している兆しは見られない。

「ソトマイヨール氏がすぐに引退し、1月20日までに後任が承認されることはありえない。リベラル派の一部強硬派は即時引退を求めるかもしれないが、ソトマイヨール氏は応じず、上院の民主党も賛同しないだろう」とタシュネット教授は指摘した。

リベラル派の象徴であったギンズバーグ判事も、民主党のオバマ政権時代に引退を求められたが応じず、87歳で亡くなる20年まで在任。結果的に共和党が後任を任命した。

ハンス教授は「民主党は、自党が任命した判事の戦略的引退を実現させるのに成功したことはない。ギンズバーグ判事がその最たる例だ。ソトマイヨール判事が戦略的な引退を考えたなら、もう引退していただろう」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中