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アングル:米国のインフルエンサー操るロシア、大統領選への影響もくろむ

2024年09月15日(日)07時52分

 今年11月の米大統領選挙に向け、ロシアが米国の有権者にひそかに影響を与えるため、ソーシャルメディア上のインフルエンサーに的を絞りつつあることが明らかになった。写真はジョージア州ケネソーで開催されたフェスティバルで、共和党のブースを通りすぎる人々。8月17日撮影(2024年 ロイター/Megan Varner)

Christopher Bing Katie Paul Raphael Satter

[9日 ロイター] - 今年11月の米大統領選挙に向け、ロシアが米国の有権者にひそかに影響を与えるため、ソーシャルメディア上のインフルエンサーに的を絞りつつあることが、米当局者の談話や最近発表された刑事告発により明らかになった。

9月6日、会見に臨んだある情報機関高官は「ロシア側がやっているのは、米国民が意識的、無意識的に、外国勢力の利益になるような風説をばらまき、宣伝し、信用されるように仕向けることだ」と語った。「こうした外国勢力は通常、米国民は同じ国の人間の見解を信じる傾向が強いことを計算に入れている」

米国の安全保障当局の間では、こうした手法は今回の大統領選に向けてロシアが好んで使う戦術の1つだという見方が広まっている。狙いは、彼らの対外心理作戦の真実味を強めることだ。専門家によれば、こうした作戦は通常、米国民を怒らせ、社会の分断を鮮明にし、党派的な対立を浮き彫りにする一方で、世界の安全保障における米政府の能力と役割に対する疑問をかき立てることだという。

別の米情報機関高官は7月の記者会見で、選挙関連の安全保障対策に関連して「こうした戦術には目を光らせている。なぜなら、一般の米国民も、ソーシャルメディアなどネット上で目にするコンテンツが、たとえ同じ米国民が発信しているように見えても、実は外国のプロパガンダかもしれないと知っておくべきだからだ」と語った。「要するに、外国の影響下にある勢力は、素姓を隠して米国民を利用して宣伝活動を進めるのが一段と巧みになっている」

<標的となった「テネット」>

米司法省は4日、ロシアの政府系メディア「ロシア・トゥデイ(RT)」の元従業員2人を刑事告発したことを明らかにした。米国の政治メディア企業に秘密裏に資金を提供していた疑いが持たれている。

起訴状によれば、ロシア側は米メディア企業のオーナーであるローレン・チェン容疑者とリアム・ドノバン容疑者に約1000万ドル(14億2000万円)を送金。2人は米国の保守系インフルエンサーに資金供与して、動画の作成とソーシャルメディアへの投稿を依頼したという。これらの投稿者の一部は過去に、ウクライナに批判的なコンテンツをシェアしていた。オーナー2人からのコメントは得られていない。

工作の対象となったメディアの名前は明らかにされていないが、ロイターの調べによれば、テネシー州を拠点とする「テネット・メディア」という企業であることが分かった。同社は「恐れを知らぬ主張」の拠点を自認している。

テネットも、度重なるコメント要請に応じていない。同社はこれまで、ポッドキャストで活躍するティム・プール氏、元ジャーナリストのベニー・ジョンソン氏など、ソーシャルメディア界での著名人を何人も雇用してきた。

訴状では、容疑者2人は資金を提供したのがロシア側工作員であることを承知していたが、投稿者らは金の出所に気づいていなかった模様だとしている。

テネットは多くのソーシャルメディアでアカウントを運用し、投稿者の動画や音声データを公開していた。裁判所の文書によるとテネットの創業者は、匿名の投稿者に指示し、4月にモスクワで発生した死傷事件の首謀者は過激派組織「イスラム国」(IS)ではなくウクライナだという虚偽の主張を行わせたという。

プール、ジョンソン両氏は4日夜、テネットに対する起訴を認める声明を発表した。プール氏は「この番組に対する完全な編集権を有していた人は私以外にいなかった」とし、「私だけでなく他のパーソナリティーやコメンテーターも、騙された犠牲者だ」と述べた。ジョンソン氏も同様に、声明の中で「本日の起訴状で、私や他のインフルエンサーがこの疑惑の計画の被害者だったことが明らかになり、動揺している」と述べている。

複数の専門家は、今回の陰謀は歴史的な傾向と一致していると指摘する。

デジタルメディアにおける偽情報を分析しているレニー・ディレスタ氏は「たとえば冷戦期にも、ジャーナリストや偽メディアへの金銭供与は、宣伝工作を隠蔽(いんぺい)するプロセスとして定番だった。今回は、その最新デジタル版といったところだ」と語る。「ジャーナリストよりもインフルエンサーを利用した点が興味深い。コミュニティー内で影響力を持っているのが誰なのかを認識しているのだ」

<「ドッペルゲンガー」作戦>

関連して、司法省は4日に提出したもう1件の訴状において、ロシアによる「ドッペルゲンガー」と呼ばれる別の工作活動を暴露した。実在する西側諸国の報道メディアになりすまし、米国の選挙立候補者やウクライナにおける紛争に関する虚偽の情報をシェアした問題だ。この工作は、「ソーシャルデザイン・エージェンシー」「ストラクチュラ・ナショナル・テクノロジー」「ANOダイアログ」というロシア系のマーケティング代理店のグループを介して、ロシア政府の指揮下で実施されたという。

裁判所に提出された証拠の中には、ロシアのマーケティング代理店が自社のアプローチとツールを説明した社内プレゼンテーションが含まれていた。これらの証拠文書によれば、計画の柱は、ロシア側に同情的な見解をシェアしている西側のインフルエンサーをピックアップし、そうした人物と協力する方法を見つけることとされていた。

プレゼン資料の1つには「ウクライナにおける戦争終結と平和的な米ロ関係を支持する伝統的な価値観の提唱者で、本プロジェクトのストーリーを広めることに前向きに参加してくれるインフルエンサーと協力すること。たとえば、俳優や政治家、さまざまな分野の専門家、メディア関係者、市民団体の活動家、聖職者など」と書かれている。

別のプレゼン資料には、ロシア企業は現在、合計2800人のインフルエンサーをモニタリングしており、そのうち600人は米国で活動するラジオ番組司会者、ブロガー、コメディアンなどだと書かれている。

情報機関高官は「ロシア側の工作担当者は、今回の選挙期間を通じて、米国や他の西側諸国のインフルエンサーとの人脈を構築・活用し、ロシアに好意的な物語を作り上げ、広めるという明確な取り組みを進めている」と語った。「こうしたインフルエンサーは、ロシア政府と公然と、あるいは秘密裏につながりのあるウェブサイトへの寄稿、その他のメディアでの取り組みに励んでいる」

米国のソーシャルメディアにおける有力人物に対して、外国勢力の工作活動に取り込まれていることを米連邦捜査局(FBI)が警告する手段や時期についてははっきりしない。情報機関高官は7月の記者会見で、こうした警告について「回答は複雑」「ケースバイケース」であるとして、米国の情報機関を統括する国家情報長官室(DNI)との協議が必要になると述べた。

DNI当局者は6日、外国勢力による工作のターゲットになっていることを警告する、いわゆる「国防上の説明」が本格化していると述べた。

(翻訳:エァクレーレン)

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