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アングル:韓国の若年層で対日感情改善、背景に政治情勢の変化

5月31日、会社員のジョン・セアーさん(24歳)は、韓国の芸人が演じる日本人ホスト、「タナカ」を見ると幸せな気持ちになる。写真は5月、ソウルのコンビニエンスストアで「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」を買うソン・インセオクさん(2023年 ロイター/Minwoo Park)
[ソウル 31日 ロイター] - 会社員のジョン・セアーさん(24歳)は、韓国の芸人が演じる日本人ホスト、「タナカ」を見ると幸せな気持ちになる。日本のアニメを見ていた10代の記憶が蘇るからだ。
韓国では今、日本の商品や文化に魅力を感じるジョンさんのような若者が増加している。年上の世代のように、70年前に自国を植民地化した国として日本を敵視するよりも、友好国として見る気持ちが強まっている。
ジョンさんは一昔前の日本風の衣装と、漫画をあしらったアクセサリーを身につけ、ソウル近郊のコンサート会場で大勢のファンに混じってタナカの登場を待っていた。タナカが崇拝するX JAPAN(エックスジャパン)の曲を口ずさみながら。
タナカは2000年代初頭の日本のホストをまねたキャラクターだ。
「本物の彼(芸人)よりタナカの方が好き」とジョンさん。「何かすごく可愛くてグッとくる。あんなにも一生懸命、ファン一人一人とアイコンタクトを取ろうとしてくれるアーティストは初めて」と語る。
タナカが日本とその文化について軽妙に語るのも、彼の魅力を一層高めているとジョンさんは言う。「日本文化のボイコットを勧めるような社会環境もあったけど、今は日本文化が自然に受け入れられているみたい」という。
タナカを演じる芸人、キム・ギョンウクさんは、一度は忘れ去られた存在だった。だが、今やタナカは韓国のユーチューブで一番話題のスターでありエンターテイナーだ。
キムさんは、タナカが若者にうけた事自体が、その理由よりも大事だと考えている。「若い人たちは理屈じゃない。ただ、好きだという事実があるだけだと思う」と述べた。
キムさん自身が10代のころに日本文化に魅せられ、韓国にはいない独特のキャラクターを生み出した。心をつかむ話し方、ウルフカットの髪形、懐かしさの漂う服装、そして、昔のJ―POPやK―POPを歌いこなすことも、タナカの人気に火をつけた。
タナカの存在は、日韓関係が雪解けを迎える中で、韓国の若者の対日感情が変化していることを如実に表している。
岸田文雄首相は5月、日本の首相として12年ぶりに韓国を訪れ、第2次大戦中の犠牲者に対して前例のない個人的な哀悼の気持ちを口にした。
タナカはK―POPスターらとライブ共演したこともあり、ユーチューブのフォロワー数が今や80万人近くに達する人気ぶり。全国コンサートツアーのチケットは、数分で売り切れた。2018年のデビュー当時とは隔世の感だ。
日韓が大戦時の歴史を巡って火花をちらしていた当時、タナカは全く人気がなかった。
対立は2019年に貿易紛争にも余波を広げ、日韓関係は過去数十年間で最悪の状態に落ち込んだ。関係悪化は、北朝鮮の軍事的脅威に対抗するための米国主導の取り組みにも影を落とした。
<生ジョッキ缶が大人気>
韓国の若者の間で日本製品需要が急激に回復すると、そうした対立は影を潜めた。
アサヒビールが5月に韓国で売り出した「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、ソウルの小売り大手コストコの前で大勢の客が野宿して開店を待つほどの人気ぶりとなった。
コンビニで生ジョッキ缶が売り出されるのを何日間も待っていたソン・インセオクさん(39歳)は「私は日本のビールの大ファンというわけではないが、ソーシャルメディアで見かけた。人々の対日感情が大きく改善しているのは事実だ」と語った。
今年第1・四半期の韓国による日本製ビールおよびウイスキーの輸入は2020年の同期に比べ、それぞれ約250%、300%も急増。衣料品の輸入も47%増えた。
2019年に日本製ビールがボイコット運動の初期の標的となり、輸入が90%落ち込んでいたのとは対照的だ。
慰安婦問題や徴用工問題の犠牲者らは、日本政府による謝罪と賠償を要求している。しかし、韓国政府高官らによると、国民の対日感情の変化に意を強くした尹錫悦大統領は今年3月、政治的な反発を招くリスクを冒し、元徴用工への日本企業の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする解決策を提示した。
ハンコック・リサーチが今年1月に実施した世論調査では、韓国人の日本に対する好感度が2018年以来で最高となり、特に29歳以下の層で最も高かった。
2019年に好感度が日本の2倍近かった中国は、ロシアおよび北朝鮮と並んで最低の部類に下がった。
ハンコックが3月に実施した調査では、尹大統領の賠償案を支持すると答えた国民の割合は40%、反対は53%だった。だが、29歳以下では支持の割合が51%を超え、反対は36%となった。
峨山政策研究所の地域専門家、ジェームズ・キム氏は、若者が日本をあまり敵視しなくなった背景には、政治情勢の変化があると説明する。
キム氏は、中国は香港や新型コロナウイルス対策において人々の自由を抑圧したと指摘し「中国が米国や日本よりも好まれていないのは明らかだ」と語った。
若者は、歴史問題の解決を巡る韓国の取り組みに100%満足しているわけではないが「もっと差し迫った脅威に目を向け、自国と考え方の近いこの地域の民主主義国家と仲良くすることの利点を理解している」とキム氏は述べた。
(Hyonhee Shin記者、 Minwoo Park記者、 Heekyong Yang記者)