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アングル:軍事衝突のリスク高まる、ダボス会議報告書が指摘

2018年01月19日(金)16時54分

1月17日、世界の主要国の間で、軍事衝突も含めた政治・経済対立が起きるリスクが急速に高まっていると、世界経済フォーラム(ダボス会議)は「グローバルリスク報告書」で指摘した。写真は韓国と北朝鮮の軍事境界線に接する非武装地帯(DMZ)で2011年12月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Noah Barkin

[ベルリン 17日 ロイター] - 世界の主要国の間で、軍事衝突も含めた政治・経済対立が起きるリスクが急速に高まっていると、世界経済フォーラム(ダボス会議)はスイスで開催される年次総会を前に公表した「グローバルリスク報告書」で指摘した。

同報告書は、異常気象や気温などの環境の脅威から、経済格差やサイバー攻撃まで、2018年に想定される最大のリスクのいくつかに焦点を当てた。

特に注目されるのは、この1年でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の言葉の応酬が激化したことで、急激に高まった地政学的な懸念だ。両者の間の緊張関係は、この数十年で核戦争の危機を最大に高めたといわれている。

トランプ大統領はダボス会議最終日の26日にスピーチを行う予定だ。同会議には、70カ国の首脳のほか、著名人や企業経営者、金融トップなどが出席する。

同報告書は、政府や企業、学界や非政府組織などの専門家計1000人近くを対象にした調査に基づいている。それによると、調査対象者の93%が、2018年には主要国間の政治・経済の対立が悪化すると予想。40%が、こうしたリスクは大きく上昇していると答えた。

約79%が、国家間の軍事衝突のリスクが高まっていると回答。報告書は、朝鮮半島の脅威のほか、中東での新たな軍事衝突の恐れを指摘している。

また報告書は、世界中で「カリスマ的強権政治」が台頭しているとした上で、ルールにのっとった多国間主義への支持が弱まったことで、政治や経済、環境面でのリスクが一層悪化していると指摘した。

<誤った方向>

報告書は、トランプ氏が決めた地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」と環太平洋連携協定(TPP)からの離脱や、2015年のイラン核合意を解消するとの脅しを取り上げている。

「われわれが格闘しているリスクには多元的な解決策が必要だが、いま違う方向に向かっている」と、報告書の作成に協力した保険大手マーシュ・アンド・マクレナン(MMC.N)傘下マーシュのジョン・ドルジック氏は述べた。

地政学的懸念が急激に上昇したものの、リスクの1位に挙げられたのは環境問題だった。プエルトリコを壊滅状態に追い込んだ大型ハリケーン「マリア」をはじめとして、2017年は大西洋でハリケーンが異常発生したことなどから、2018年は異常気象の被害が最も懸念される単独リスクとみられている。

世界経済が回復に向かうなか、経済に関する懸念は急低下している。それでも報告書は、多くの国で「社会をむしばむ問題」として収入格差を上げ、高い債務率や貯蓄率の低さ、不十分な年金システムを踏まえれば、経済環境面で自己満足に浸るべきではないと警告した。

「経済回復が拡大し、われわれが見過ごすままに世界の組織や社会、環境を弱めてきた断絶に取り組む好機がやってきた。この機を逃すことはできない」と、ダボス会議主催者のクラウス・シュワブ氏は指摘し、こう付け加えた。「世界システムの衰弱を深刻に受け止めなければならない」 (翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

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