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アングル:中国経済に影、ドロップアウトする地方の子どもたち

2017年08月30日(水)08時15分

 8月25日、中国の過去の世代においては、農家に生まれ育った人や工場で働く人にとって、低学歴はそれほど問題ではなかったが、現在では広範囲に及ぶ影響をもたらしかねない。写真は幼稚園の前で遊ぶ子どもたち。陝西省で6月撮影(2017年 ロイター/Sue-Lin Wong)

[HUANGCHUAN VILLAGE(中国) 25日 ロイター] - 中国北西部に暮らすQu Yexiuさんは昼食後、家事や2歳になる孫息子の世話をしながら、自宅で過ごすのが日課だった。

だが陝西省Huangchuan村に新しく幼児教育センターができてからはそこに通うようになり、孫息子は他の幼児たちと遊んでいる。

「村にセンターができて、状況は良くなっている」と孫2人の面倒を見ている56歳のQuさんは言う。孫の親たちは安徽省で働いている。同センターに通う孫息子のほか、もう1人の孫は幼稚園に通っているという。

「孫息子は他の子どもたちと遊べるし、私は他の祖父母とおしゃべりすることができる」

このような幼児教育センターは、地方の学校で退学する子どもの数を減少させるという、中国最大の課題の1つに対する答えとなるかもしれない。

人口の約半分が暮らす地方に住む子どもたちは、都市部の子どもたちと比べて、認知能力とソーシャルスキルがはるかに劣っており、自分の名前が言えるようになる前から退学する道へと向かっている。

過去の世代においては、農家に生まれ育った人や工場で働く人にとって、低学歴はそれほど問題ではなかったが、現在では広範囲に及ぶ影響をもたらしかねない。

中国政府は自国をバリューチェーン(価値連鎖)の上層へと押し上げたいと考えており、世界第2位の経済大国が高い付加価値をもつ経済へと移行したいのであれば、より高度な技術を備えた労働力が必要となってくる。

「これは中国が直面する最大の問題だが、誰もよく分かっていない。目に見えない問題だ」と語るのは、中国の大学と協力して、同国地方の貧困と教育などを研究する米スタンフォード大学の機関「Rural Education Action Program(REAP)」のスコット・ロゼル氏だ。

「中国の人的資源は(世界の中所得国のなかで)最低レベルにある。南アフリカやトルコよりも低い。その原因が乳幼児期に十分発達しなかったことと関係していると、われわれは考えている」

中国の国家衛生・計画生育委員会は、地方の乳幼児に早期教育の機会を提供すべく、ロゼル氏のような経済専門家と協力している。

アジア開発銀行が共同執筆し、学術誌「チャイナ・クォータリー」で昨年発表された論文によると、2010年に実施された最新の国勢調査に基づくと、中国の労働人口の76%は高校に行っていなかった。

地方と都市部の格差も大きい。2010年に地方の労働人口で高校に通ったことがあるのはわずか8%だったのに対し、都市部では37%だった。また、中国統計局によると、2017年上半期の1人当たりの可処分所得は、地方が6562元(約11万円)だったのに対し、都市部では1万8322元(約30万円)だった。

中国教育省のデータによると、2015年に中学を卒業した生徒は94.1%、高校を卒業した生徒は92.5%だった。教育省の統計と2010年の国勢調査に基づくデータの違いについて尋ねると、同省は直ちに、コメントを控えると回答した。

幼児の発達が遅れている要因の1つに親の不在があると、教育専門家は指摘する。村にとどまるよりも稼ぎが良いため、地方の親たちの多くが都市部に出稼ぎに出ている。

そうした村において、早期の幼児教育センターが役に立つ可能性がある。同プログラムのもとで、地方の町村50カ所でセンターが試験的に開設されている。同センターでは、生後6カ月の幼児から3歳児までが他の子どもたちと一緒に本を読んだり、遊んだりできる。

REAPは中国全土で30万カ所にセンターが必要であり、これを率いるのは同国政府が最も適任だとしている。

国家衛生・計画生育委員会のCai Jianhua氏は、こうしたセンターを中国全土で開設するため、国内総生産(GDP)の0.1%に当たる700億元を政府が拠出するよう願っている。

同氏によれば、政府は資金を調達すると確約していないものの、近年は無料の健康診断や予防接種など最も若い国民への投資を強化しているという。

中国が「幅広い経験と深い知識」を備えた国民を相当増やさない限り、同国の経済は発展するのに苦労するだろう。

「21世紀に競争力を付けるためには賢い人たちが必要なのが現実だ」とCai氏は語る。

確かに、高校に通う生徒の数が低い理由は数多くあると、前出の「チャイナ・クォータリー」に掲載された論文は指摘している。

それら理由のなかには、居住地を制限する中国の制度や家族を養うための早期就労、地方医療への不十分な投資が含まれている。

中国における都市部と地方の教育格差を縮小すれば、不平等格差の解消に役立つと、教育エコノミストは指摘する。格差が縮まらなければ、習近平国家主席にとって、2020年までに貧困を撲滅し、中国を「適度に繁栄した社会」にするとした目標達成は一段と困難になるだろう。

(Sue-Lin Wong記者 翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

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