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インタビュー:先端素材への成長投資加速、銅製錬は生産能力「最適化」=JX金属社長

2025年09月05日(金)11時51分

JX金属の林陽一社長はロイターのインタビューに応じ、中国勢との競争激化などを踏まえて基盤事業である銅製錬の生産能力を「最適化」する一方、半導体や情報通信向けなど先端素材事業への投資を加速する意向を示した。9月3日、東京の本社で撮影(2025年 ロイター/Kentaro Okasaka)

Kentaro Okasaka Yuka Obayashi

[東京 5日 ロイター] - JX金属の林陽一社長はロイターのインタビューに応じ、中国勢との競争激化などを踏まえて基盤事業である銅製錬の生産能力を「最適化」する一方、半導体や情報通信向けなど先端素材事業への投資を加速する意向を示した。2040年までに営業利益を2.5倍へ引き上げる目標に向け、事業構造の見直しを進めるほか、買収も視野に入れる。

林氏は、7月に光通信に欠かせない結晶材料「インジウムリン基板」の増産に向けた設備投資を発表したことを例に挙げ「今はもうデータセンター間やサーバー間も光でつながっている。改良が進み、いずれ銅線でデータのやり取りをしなくなっていく可能性が高い」と指摘。「最先端のものに強いのがわれわれの事業だ。タイムリーに必要な投資はやっていくつもりだし、それだけの財務も持っている」と語った。

6月には、先端素材に必要なレアメタル(希少金属)などの確保が見込まれるオーストラリアの砂鉱床に段階的に2000万豪ドル(約19億円)を拠出し、権益を5%取得する契約を締結したと発表している。林氏は「供給網はもっと確保していきたい」と話した。

一方、銅製錬事業については、鉱山会社から銅精鉱を調達する条件が悪化して収益性が低下していることから、まず生産量を減らすことを検討する。今年度の減産規模は数万トンになる可能性があるという。

長期的には、年間45万トンある生産能力を適正化する方針で、25年度内にもスケジュールの方向性を示す。使用済み電子機器などリサイクル原料から製錬する分の比重は高める。林氏は「中国がメジャープレーヤーになり、製錬能力を十分に蓄えた。当社は約50%を海外に出しているが、いずれ中国が輸出ポジションになれば、われわれとしては太刀打ちできなくなってしまう。精鉱の需給についても、中国はビジネス的にわれわれとは違うゲーム理論で動いている」と説明した。

一方で、林氏は製錬の重要性にも言及。製錬する過程の副産物として、先端半導体に欠かせない原料である貴金属・レアメタルなどを回収できるためだ。

日本の銅の製錬能力は世界で4位。日本勢では三菱マテリアルも小名浜製錬所(福島県)での銅精鉱処理を縮小する方向で検討を開始している。生産能力縮小が日本の産業・社会に与える影響について林氏は、国内需要への影響はないとしたうえで、「日本では今後人口も減っていく中、使用量がどれだけ増えるのかという話もある。逆に、本当に国としてその能力が必要なのであれば、国が何らかの補助をするべきだ」と述べた。

ENEOSホールディングスの連結子会社だったJX金属は今年3月、東証に新規上場した。8月の4─6月期決算発表に合わせ、26年3月期通期の連結純利益予想を従来の580億円(前年比15%減)から700億円(同2.5%増)と一転増益に上方修正した。スマートフォンとAI(人工知能)サーバー向けの情報通信材料の製品需要が予想を上回るペースで拡大した。

林氏は上場した効果について「テックが分かるような投資家と直接、話ができるようになった。意見は非常に参考になるし、やり取りをすることがわれわれのスピード感向上につながっており、メリットは大きい」と述べた。

また、営業利益を足元の1000億円規模から40年に2500億円へ引き上げる目標について、「大きなM&A(合併・買収)も含め、いろんな成長戦略を講じていかないと40年の長期ビジョンの数字には到底たどり着けない」と説明。「新しい分野で新しい材料をつかんでいく際に、一緒にやってもらえるプレーヤーを引っ張ってこなければならない」と語り、国内外や規模の大小を問わずM&Aを推進して成長を図っていく考えを示した。

*インタビューは3日に行いました。

(岡坂健太郎、大林優香 編集:久保信博)

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