加クシュタール、セブン&アイに友好的協議呼びかけ 「株主の価値向上」
9月9日、カナダ小売大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)は、セブン&アイ・ホールディングスと友好的な協議ができれば「株主にさらなる価値向上をもたらすことができると確信している」とする声明を発表した。都内のセブンイレブン店舗で8月撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Ritsuko Shimizu Scott Murdoch Kane Wu
[東京 9日 ロイター] - カナダ小売大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)は9日、買収提案を拒否したセブン&アイ・ホールディングスに友好的な協議を呼びかける声明を発表した。秘密保持契約を結ぶ用意が引き続きあるとし、「株主にさらなる価値向上をもたらすことができると確信している」と主張した。
クシュタールは声明の中で、セブンが友好的な協議を拒否したことを「遺憾に感じる」とし、両社のアドバイザー同士の協議の機会を拒否されたほか、秘密保持契約の締結の要求も受け入れられなかったと明らかにした。セブンとの統合は「両社の顧客、従業員、フランチャイジー、株主にとって戦略的及び財務的な利益をもたらすと強く確信している」と強調した。
セブンは同社に買収を提案したクシュタールに6日付で書簡を送り、クシュタールがセブンの企業価値を低く評価していることに加え、競争法上の懸念があることに触れた。条件を大幅に引き上げても「クロージングの確実性が担保されていないと考えている」とした。
クシュタールは声明で、「規制当局の承認を得るために必要となる場合には、事業の切り離しも検討していく」と表明。日本の事業については「重要性を十分認識している」とし「セブンがこれまで日本で築き上げてきたエコシステムを確保しつつ、規制上のニーズを満たすための解決策が必ずあると信じている」と訴えた。
また、「今回の買収を現金で実施するだけの十分な余力があること、資金調達は統合の制約とならないことを強く確信している」と説明。すでに財務アドバイザーから、一般的な条件の下、今回の買収に関する資金調達が可能だという趣旨のレターを受領しているとした。
クシュタールの声明に対してセブンは、「スタンドアローン(単独)での本源的価値を十分に認識し、非常に現実的な規制上に関する懸念を払拭する提案を提示した場合には、引き続き真摯な協議に応じる用意がある」とのコメントを発表した。ただ、現時点でのクシュタールの提案は「実効性の伴う議論を行うだけの根拠・材料を提示していない。当社の潜在的な株主価値の短中期的な実現について著しく過小評価している」と、5日の取締役会での決定を繰り返し、クシュタールから新たな提案がない限りは「当社は事業の遂行に注力し、潜在的な株主価値の実現・顕在化に向けて、実行可能な戦略的施策を追求していく」とした。
9日の取引でセブンの株価は2.7%高の2190円(15.35ドル)と、クシュタールの提示価格である14.86ドルを上回って推移している。買収総額は約385億ドルに上る。
ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、サークルKを傘下に持つクシュタールがセブン-イレブンを運営するセブン&アイを買収すれば、全額現金による買収案件としては米実業家イーロン・マスク氏による2022年の402億ドルでのツイッター買収以来の大きさとなる。
セブンの株主である米ファンド、アーティザン・パートナーズ・アセットマネジメントは9日、セブンが挙げたクシュタールの提案を受け入れない理由は解決可能とのコメントを発表した。「株主にとって最善の結果を得るため、取締役会は緊急性を持ってこの問題に対処することが不可欠」とした。
ブルームバーグは先に、クシュタールがセブンの株主に対して買収を直接提案する可能性も排除していないと報じていた。
セブンは売上高や店舗数、従業員数でクシュタールを大きく上回るが、株価は何年も低調に推移してきた。物言う株主の米バリューアクト・キャピタルなどに経営陣や資産構成について注文をつけられてきた。
調査会社ジャパン・コンシューミングの共同創業者マイケル・カウストン氏は「セブンが現在割安なのは、構造やタイミング、企業文化に関連するさまざまな理由がある。潜在的な長期的価値は現在の価値を大きく上回る」と指摘。「クシュタールはこれを分かっており、買収提案のタイミングは同社のM&Aをまとめるスキルの高さを物語っている」と話す。一方、「多くの投資家はセブンの真の価値を認識しているため、安い価格で買収しようとすれば厳しい戦いになるだろう」と話す。