ニュース速報

ビジネス

アングル:避妊具メーカー、インドに照準 使用率低い潜在市場

2023年09月23日(土)11時00分

 9月21日、世界の避妊具メーカーは、コンドームの使用率が現時点で低いインドが最大の成長市場になると見て、売り込みに力を入れている。写真はビハール州の地区健康センターに設置された無料のコンドーム配布箱。3月撮影(2023年 ロイター/ANUSHREE FADNAVIS)

Kashish Tandon

[ベンガルール 21日 ロイター] - 世界の避妊具メーカーは、コンドームの使用率が現時点で低いインドが最大の成長市場になると見て、売り込みに力を入れている。今年半ばに人口が世界最多になったとみられる巨大市場インド。国内の避妊具メーカーは今年、大々的な新規株式公開(IPO)を果たした。

欧州、日本、中国などの主要市場では人口が減少し、社会が高齢化している。こうした中、避妊具メーカーは近代的なマーケティング手法を駆使し、インドの都市部、農村部を問わず、ITに精通した巨大な若年層にアプローチしている。

グランドビュー・リサーチのデータでは、インドの避妊具市場は2030年までに2倍以上の17億ドルに達する見通しだ。

日本のオカモトで海外販売を担当する神尾和寛係長は「インドの市場はとても魅力的だ。コンドームの使用率がまだ低く、使用を促す教育が広がっていけば、人口が多いだけに大きな需要になる」と語る。

インドではセックスについて話すことがほとんどタブーで、テレビのゴールデンタイムにコンドームの広告を出すことは禁止されており、地方の消費者は避妊具に懐疑的だ。しかし力強い経済成長、プレミアム製品の購入意欲、ソーシャルメディアの普及、そして性に対する考え方の進化により、避妊具メーカーがインドを見る目は変化しつつある。

インドでは、現在性交渉を持っている男性のうち、コンドームを通常の避妊手段として使用している人は5%にも満たず、コンドームを全く知らない人も2%いることが、2020年に実施された政府の調査で明らかになった。対照的に、米国立衛生統計センター(NCHS)の調べでは、米国の男性の19%がセックスのたびにコンドームを使用している。

コンサルタント会社テクノパック・アドバイザーズのアルビンド・シンハル会長は、インド市場は世界最大になる可能性を秘めていると言う。「インドは単に人口が最多というだけでなく、こうした製品の対象となる層の人口も最多だ」と説明した。

<人口増加>

インドでは可処分所得も増えており、世界銀行のデータによると2021年には一人当たりの国内総生産(GDP)が2000ドルを超える。これは消費急増の節目になるとされる水準で、中国は2006年に突破した。

国連は4月、インドは今年半ばに中国を抜いて世界で最も人口の多い国になるとの推計を示した。15歳から64歳の人口だけで10億人近い。

世界最大のコンドームメーカー、マレーシアのカレックスのミア・キアット・ゴー最高経営責任者(CEO)は、「これほどの人口と非常に若い人口構成を抱えるインドには多くのチャンスがあると信じている」と語った。

同社は地元ブランドと提携して事業拡大を目指す。一方、オカモトは現在、インドでオンライン販売を手掛けているが、今後はブランド認知度を高めて商品を店頭に並べたいと考えている。

英日用品大手レキット・ベンキーザー・グループは避妊具ブランド、デュレックスの新製品を発売し、インド農村部で販売促進活動を拡大している。

関係筋によると、米国最大のコンドームブランド、トロジャンを所有するチャーチ・アンド・ドワイトはインドへの正式参入を計画している。同社はロイターの取材にコメントを控えた。

<ソーシャルメディア>

インド市場の最大手は国内メーカーのマンカインド・ファーマで、シェアは33%。同社は5月に5億2000万ドルの新規株式公開(IPO)を行い、株価が急騰して企業価値は70億ドルに達した。

同社はライバル社同様、宣伝にソーシャルメディアのインフルエンサーやイベントの利用を増やしている。

ジェイン経営調査研究所のマーケティング教授、アシタ・アガルワル氏は、ソーシャルメディアによって「マスメディアではできない広告対象の絞り込みが容易になった。特定の時間帯にコンドームのCMを禁止するルールがあるだけに、なおさら便利だ」と説明した。

HDFCセキュリティーズ・インスティテューショナル・エクイティーズのデータによると、マーケティングへのアプローチの変化を反映し、プレミアムコンドームの売上高は過去5年、年率21%増加した。

若者の意識の変化も追い風だ。

グランドビュー・リサーチのプラニタ・ボー氏は「結婚制度への信頼を失い、結婚を全く、あるいは少なくとも30代半ばまでは望まないインド人が増えている」とし、「この大きな文化的変化が、20代後半の人々を婚前交渉に向かわせた」と解説した。

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中