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政権に翻弄、山口副総裁は共同文書に慎重=12年下半期・日銀議事録

2023年01月31日(火)08時54分

 日銀が1月31日に公表した2012年下半期の金融政策決定会合の議事録では、野田佳彦政権から第2次安倍晋三政権への移行期に当たり、政界の激動に翻弄される日銀の姿が浮き彫りになった。都内で2010年4月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

[東京 31日 ロイター] - 日銀が31日に公表した2012年下半期の金融政策決定会合の議事録では、野田佳彦政権から第2次安倍晋三政権への移行期に当たり、政界の激動に翻弄される日銀の姿が浮き彫りになった。白川方明総裁が野田政権との共同文書策定を切り出すと、山口広秀副総裁は中央銀行の独立性の観点から慎重姿勢を見せた。12月の総選挙で2%物価目標や大胆な金融緩和を掲げる自民党が大勝すると、直後の会合では2%目標に同調する委員が出てきた。

現在の岸田文雄首相は2月に黒田東彦日銀総裁の後任人事を国会に提示する予定で、政府と日銀が13年1月に策定した共同声明の見直しの是非を新総裁と議論する見通し。山口氏は後任総裁の有力候補の1人とみられている。(以下、肩書は当時)

<民主党政権との文書、白川総裁は政府と日銀の共同責任を強調>

12年下半期、欧州債務危機の影響拡大による海外経済の減速と歴史的な円高、さらに民主党政権下での日中関係の悪化で日本経済は低迷していた。7―9月期の実質国内総生産(GDP)1次速報は前期比年率3.5%減となった。デフレが続く中、日銀は中長期的な物価安定の「目途」とする1%の物価上昇率実現に向け、半年間で3回、資産買い入れ等基金の増額を決めた。

資産買い入れ等基金の増額などを決めた10月30日の決定会合の終盤、白川総裁は「ここで一点私から提案がある」と切り出し、政府と日銀の共同文書について説明を始めた。白川総裁は、日銀と政府がこれまでさまざまなレベルで密接な意見交換を行い、デフレ脱却に向けて「十分な認識を共有してきた」と指摘。「デフレ脱却に向けた取り組みに関して、これまで両者で共有している部分の認識を改めて対外的に明確な形で示してはどうかということになった」と述べた。すでに政府と日銀の事務方が文案を調整した上での発言だった。

白川総裁の提案に山口副総裁は「賛成する」と述べたものの「政府と日銀がこういった文書を出すことについては、日銀の独立性との関係で問題が起きないか」と懸念を表明した。「こういったものが1つの流れとなって、いつも政府と日銀が何らかの形で確認文書を取り交わしながらでないと日銀の政策ができないということになってくると、これは非常に具合の悪いことだと思う」と語った。

白川総裁は政府・日銀の共同文書を対外公表することは「政府の方も(物価上昇率)1%に向けてコミットしているということになる」と指摘。文書はデフレ脱却のためには成長力強化への取り組みが不可欠だという認識を示したもので「1%を達成するのは、政府と日銀がともにだ」と説得した。

決定会合後の声明文では、「別紙」に政府・日銀の共同文書が盛り込まれ、早期のデフレ脱却に向けた政府と日銀の役割が記された。日銀は「引き続き『1%』を目指して、強力に金融緩和を推進していく」とされた。

<政権交代、物価「目標」2%容認論が浮上>

12年下半期、政界は激動していた。野田首相の消費増税方針に反発して民主党から離党者が相次ぐ一方、野党・自民党では9月に安倍氏が総裁に返り咲いた。11月16日に衆院が解散すると、自民党は欧米先進国並みの物価目標2%を政府・日銀の政策協定(アコード)で定めることや、「大胆な金融緩和策」の断行を政権公約に掲げた。

11月19―20日の金融政策決定会合では、終盤に政府側の出席者に発言の順番が回ると前原誠司経済財政担当相が「(日銀会合への出席は)恐らくこれで最後になると思う」と話し始め、「今、選挙が行われていて、特に自民党の安倍総裁が言われている『日銀が全部悪い』、『日銀に全てやらせれば良い』といった考え方には与しない」と主張。委員たちの議論に賛意を示し「金融緩和だけで物事が解決できるわけではなく、やはり基本的にはお金を使って日本の体質改善をやらないと根本的な解決にならないというのは、私は全くその通りだろうと思っている」と述べた。

12月16日投開票の総選挙では自民党が圧勝。その直後、19―20日の決定会合では委員から安倍政権の誕生を意識した発言が散見された。

白井さゆり審議委員は、次回13年1月の決定会合で「可能であれば『中長期的な物価安定の目途』及び時間軸政策の見直しをするのが適切だ」と発言。ゼロ金利制約や物価指標の上方バイアスなどの観点から物価目標に「ある程度ののりしろは必要だ」として「条件付きで2%を明記するのは可能だ」と述べた。日銀が使ってきた物価安定の「目途」という文言についても、日銀の枠組みとインフレーション・ターゲティング採用国の枠組みの共通点が多いことを理由に「私自身は『目途』を『目標』あるいは『ターゲット』という言葉に変更しても良いのではないかと考えている」と語った。

西村清彦副総裁は、日銀が中長期的な物価安定の目途を1%としているために「特に海外の市場参加者には日銀がデフレ脱却に消極的であるという明らかな誤解がある」と指摘。物価安定の「目途」を他の中央銀行と同じく長期的な物価安定と定義し直して、このインフレ目標を「ゴール」として公表するのが望ましいのではないかとし、「長期均衡での物価安定は基本的に他の中央銀行のインフレ目標と同じにすべきであり、現在それは2%だ」と語った。

日銀はこの年の2月に中長期の物価安定の目途を1%と規定したばかり。白井委員も2月の決定会合では、日本の潜在成長率の低さや低い物価観を挙げて「現在でもインフレ率が2%台半ばもある米国のように、長期物価安定の目安をいきなり2%に置くというのは、やや実現性を欠いた議論」と述べていた。物価「目標」ではなく「目途」という文言を選んだのは、目標が与える「固定的ないし硬直的な印象」(山口副総裁)を避けたためだった。

しかし、資産買い入れ等基金の増額を繰り返しても物価は浮揚せず、海外経済の減速や歴史的な円高が景気を圧迫した。物価目標2%を掲げる安倍自民党が政権に復帰する過程で、日銀を取り巻く環境は大きく変わっていった。

木内登英審議委員は12月の決定会合で「今後、新政権と本行との間で政策協調などを巡るコミュニケーションが本格的に始まると思うが、本行としてはこれを前向きに受け止める姿勢が重要だ」と述べた。

12月の決定会合では、白川総裁が中長期的な物価の安定についての論点整理を執行部に指示。翌13年1月21—22日の決定会合で物価安定目標を2%とすることを決め、政府・日銀は22日、日銀が2%目標を「できるだけ早期に実現することを目指す」と明記した共同声明を発表した。

(和田崇彦)

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