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焦点:全固体電池の「点火」に挑む日特、EV時代生き残り図る部品各社

12月28日、スパーク(点火)プラグ最大手の日本特殊陶業(日特)が電気自動車(EV)向け次世代電池として期待される「全固体電池」の開発を加速している。写真は日本特殊陶業の彦坂氏。名古屋で12日撮影(2017年 ロイター/Naomi Tajitsu)
[名古屋 28日 ロイター] - スパーク(点火)プラグ最大手の日本特殊陶業(日特)<5334.T>が電気自動車(EV)向け次世代電池として期待される「全固体電池」の開発を加速している。各国の環境規制強化で、完成車各社だけでなく、エンジン関連部品メーカーもEVへの対応を迫られており、ガソリン車で使う点火プラグの需要減は時間の問題。「(点火プラグは)必ずいつかピークアウトする」――。日特の小島多喜男執行役員はロイターの取材でこう危機感をにじませた。
<将来に備えた経営課題>
自動車各社の将来戦略は急速にEVに傾斜しているものの、実際はコストや航続距離、充電時間など普及を阻む課題はなお山積みだ。新興国ではエンジン車の需要が当面続くとの見方もある。特に日特が世界シェア40%を持つ点火プラグはアフターマーケット需要もかなり多く、当分はなくならないとみられている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の岩井徹シニアアナリストは、EV化が急に進んでも、点火プラグなどガソリン車のアフターパーツ需要はすぐには消えないとし、「日特はまだ時間的猶予がある」とみる。
ただ、同氏によれば、日特の現在の売上高の84%を占める部品がEVによって不要になる。また、同社の利益の約6割は点火プラグを中心としたアフターパーツに依存しており、こうした点火プラグ事業への依存度の高さが同社の先行きへの不安につながっている。
同社が全固体電池の研究開発を始めたのは2010年ごろ。同年には日産自動車<7201.T>がEV「リーフ」の初代を発売したものの、当時はまだEV普及に懐疑的な見方が多かった。しかし、日特は「将来に備えて早くから手を打っておく」(小島氏)必要があると判断、EVの主要部品である電池への取り組みを始めた。
日特はEV用へのシフトを「大きな経営課題ととらえている」(同氏)。
<持ち前のセラミックス技術を活用>
全固体電池とは、現在主流のリチウムイオン電池の電解質を可燃性のある液体から固体に変えた電池。リチウムイオン電池は液漏れや発火の恐れがあるのに対し、全固体電池は安全性が高く、大容量・高出力・長寿命などが実現でき、航続距離を延ばすことも可能だ。
全固体電池はトヨタやホンダ<7267.T>、独BMW
トヨタが20年代前半の実用化を目指して開発中の全固体電池では、固体電解質に導電性の高い硫化物を用いる。硫化物は水分に触れると毒ガスの硫化水素が発生する。トヨタでは「その問題は解決済み」(同社幹部)としているが、硫化物の安全性を懸念する声もある。
一方、日特は固体電解質に酸化物を使い、硫化物のようなガスを出さない。これまで酸化物では硫化物のように電池を薄くして大きくすることが難しかったが、同社は得意のセラミックス技術を活用して見つけた特殊な物質を酸化物の固体電解質に混ぜることで、硫化物の場合と同じように大型化できることを突き止めた。
同社はTDKが開発した縦4.5ミリ、横3.2ミリの電池よりも大きい10センチ角の電池を開発した。
<20年代にはリチウムイオン電池超える性能に>
日特の電池の課題は性能に結び付くエネルギー密度の向上だ。小島氏は「全固体電池では、トヨタの電池が最高性能と一般的にいわれており、酸化物系はまだその性能に達していない」と話す。日特は現在のエネルギー密度を公表していないが、開発に携わる研究員の彦坂英昭氏は「まずは20年くらいまでにリチウムイオン電池と同じ性能にし、20年代には超える性能にしたい」という。
EV化の進展で対応を急いでいる部品メーカーは日特だけではない。変速機などを扱うアイシン精機<7259.T>は20年までにEV向け駆動ユニットの実用化などを目指している。同社はEV化による不要部品の売上高依存度が5割を超えている。
トヨタとマツダ<7261.T>と共同でEVの基盤技術開発会社を設立したデンソー<6902.T>は、売上高の約38%をEV化で不要になる部品が占めているが、「明確にEVへの対応もできており、新規部品でオフセットできる」と岩井氏はみている。
エンジン車への規制強化を進める中国や米国、インドなど世界市場で生き残るため、完成車メーカーは相次ぎEV強化を打ち出している。EVに慎重だったトヨタもようやく大きく舵を切り、18日には現在ゼロのEVを20年代前半に10車種以上へ増やし、25年ごろまでにガソリン車のみの車種をゼロにする方針を表明した。
EVの普及スピードに対する専門家の見方は分かれるが、EV時代の本格的な到来に備え、部品メーカー各社も抜本的な対応策が求められている。
(白木真紀、田実直美 編集:北松克朗)