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アングル:EUの新たな為替ヘッジ規制、狙いは金融危機回避か

2017年09月19日(火)16時03分

 9月14日、欧州連合は域内の為替関連デリバティブ取引について、来年1月から変動証拠金規則を導入する。写真はユーロなどの紙幣。ワルシャワで2011年撮影(2017年 ロイター/Kacper Pempel)

[ロンドン 14日 ロイター] - 欧州連合(EU)は域内の為替関連デリバティブ取引について、来年1月から変動証拠金規則を導入する。トレーダーの話では、これに伴って特にヘッジファンドや保険会社など大規模な取引残高を抱える金融機関は、為替リスクの管理がより難しく、かつコストも高くなるという。

為替フォワードなどを通貨変動回避のために利用している銀行や企業、ファンドなどが新たに変動証拠金を課される。つまり、日々の取引に見合う現金を担保として用意しなければならない。余計な資本手当てが必要になる以上、金融市場での投資活動を鈍らせるだろう、と市場参加者は懸念する。

ステート・ストリート(ロンドン)の欧州中東アフリカ地域通貨責任者ジェームズ・ビニー氏は「欧州全体で為替フォワードへの証拠金を積み増すことを求める規則は、この地域の金融システムにとって衝撃だ。とりわけ投資業界は全般的に影響を強く感じることになる」と述べた。

ヘッジファンドのあるトレーダーは「1つの取引に対する資本手当ての規模は小さいが、積み重なると投資能力が制約を受ける」と危惧する。

もっともそれこそが肝心な点だと指摘する声もある。この規則は、大手投資家に日々の為替変動に応じた証拠金差し入れの義務を負わせることで、2008年の世界金融危機につながった無謀な取引を抑え込むのが狙いだ。

ロンドンのベーカー・アンド・マッケンジーでデリバティブ慣行を担当するPhung Pham氏は変動証拠金規則に関して08年の例を引き合いに「新たなリーマン・ブラザーズやAIGの出現を防止するという考え方が背景にある」と説明した。

変動証拠金規則が導入されるまでに取引金融機関は必要な書類の整備を迫られる。導入後は、相互に1日単位で証拠金を交換し、リアルタイムで必要なヘッジ規模を計算しなければならない。これまで数日、もしくは数週間かけて行うことに慣れていた作業だけに、負担は大きい。

結果として市場の収益機会をうまく生かすことはできなくなる。一部の市場参加者からは、欧州の各都市は為替取引の拠点として魅力が薄れるとの見方も出ている。

米国における変動証拠金の適用はずっと緩く、法律事務所マクファーレンズによると、金融規制改革法(ドッド・フランク法)では実際の外貨受け渡しが行われるフォワードおよびスワップは対象外とされている。

<ロンドン空洞化も>

英国はEU離脱を選択したものの、EUの変動証拠金規則は来年の発効時に採用する、と各法律事務所は予想している。ロンドンが世界最大の為替取引センターである点を踏まえると、これは重大な問題だ。

ロンドンにおける1日当たりの取引高は2兆4000億ドル強。うち現物が3分の1、残る3分の2をデリバティブが占める。

昨年10月のポンド急落や今年に入ってからのユーロ/ドル急騰などの事態では大きなリスクが生じる。為替デリバティブは企業がこうしたリスクを回避しようと購入を増やしているため、取引が近年膨らみ続けている。

担保積み増しが必要になることで、中小企業は今後ヘッジ取引自体を断念してしまうかもしれない。

ホールセール市場ブローカー協会のデービッド・クラーク会長は「多くの中小企業にとって、為替リスクに担保を差し入れる世界への移行というのは極めて大きな動きと言える。システムや内部報告、法令順守もろもろの点から高い費用を要する。最悪なのは『もうリスクをカバーしない』と言い出す事態だ」と述べた。

大手勢の間でも取引をロンドンからニューヨークやシンガポールなど他の金融センター経由に切り替える向きが出てきそうだ。アレン・アンド・オーヴェリーのパートナー、ニック・ブラッドベリー氏は「大手行は担保差し入れの面で厄介な義務のないセンターへ引き寄せられていく」とみている。

(Saikat Chatterjee記者)

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