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焦点:保護主義的トランプ発言に身構える日本、対応求める声も

2017年01月12日(木)19時08分

 1月12日、トランプ米次期大統領が「国境税」(ボーダータックス)の導入意思をあらためて示し、第2次世界大戦以降の自由貿易体制に陰りが出てきた。写真は安倍首相がトランプ氏との初会談後に行った記者会見の場に飾られた両国の国旗。2016年11月撮影(2017年 ロイター/Andrew Kelly)

[東京 12日 ロイター] - トランプ米次期大統領が「国境税」(ボーダータックス)の導入意思をあらためて示し、第2次世界大戦以降の自由貿易体制に陰りが出てきた。対米貿易黒字の日本へ圧力がかかり続ければ、グローバルに展開する日本企業の打撃になるだけでなく、保護主義への懸念から円高になるリスクもある。

政府内では事態が深刻化した場合に備え、企業支援を柱とする政策対応を求める声も浮上している。

<政府が密かに作成した資料、対米投資の巨額さ強調>

黙っていたら通商摩擦に発展しかねない――。中国や日本を名指しし、貿易の不均衡是正を主張するトランプ氏の発言を受けて、日本政府関係者のひとりは危機感を示す。

「経済成長と貿易赤字の拡大は、コインの裏表。にもかかわらず『不当な貿易』と国名を挙げて名指しするとは」と、別の政府関係者も、トランプ氏の会見での発言に驚きを隠さない。

昨年11月のトランプ次期米大統領と安倍晋三首相の会談を踏まえ、安倍首相がトランプ氏との友好関係の構築を強調したが、11日の会見を受けて政府内の警戒感は強い。

在米日本大使館は、米商務省などのデータをもとに日本の対米直接投資が311億ドルと、ドイツの255億ドル、カナダの250億ドルを抑え「20カ国・地域(G20)の主要国の中で最大」と明記した資料を作成した。

資料では、14年までの累計で「日本の多国籍企業」が83万9000人分の雇用を米国内で生み出したことも例示し、「日米関係がウィン・ウィンであることを働きかける」(先の関係者)とみられる。

<国境税現実なら、日本企業にも打撃>

しかし、過去の実績だけで収拾をはかれるかは不透明だ。実際、政府内には「オバマ政権下での実績を示してもトランプ氏の心には響かない」「これまでとは異なるアプローチも必要」との声がある。

マクロ動向に詳しいある政府関係者は「安いところでモノを作って、高く売れるところで販売するというモデルが崩れることを覚悟する必要が出てきた」と危機感を募らす。

米国内で生産する自動車や電機などの日本企業が増え、日本から直接、米国向けに輸出する量は、1980年代と比べて大幅に減少している。

しかし、中国を含めた新興国から完成品だけでなく、部品も含めて輸出しているケースが多く、ボーダータックスが設定された場合、かなりの打撃が日本企業に加わるリスクが存在する。

その政府関係者は「今後のトランプ氏の政策展開を見極める必要があるが、日本企業にとって、一時的な打撃もあり得る。深刻になりそうなら、経済対策の立案も視野に入れるべきだ」と話す。

<保護主義懸念の円高リスク>

もう1つのリスクは、トランプ政策の保護貿易的側面に光が当たり過ぎ、これまでのドル高/円安、株高のシナリオが一転、ドル安/円高、株安へと急変する展開だ。

先の政府関係者は、円高が急速に進んだ場合に「通貨当局のけん制発言(口先介入)や、場合によっては、日銀による追加緩和が必要になるかもしれない」と述べている。

日銀内では、米株の乱高下や円高を材料にした日本株の下落に対し、楽観的な見方が多い。トランプ相場の期待先行の面が浮き彫りになっているものの、トランプ氏が主張してきた減税やインフラ投資の実施は大きなブレがなく、成長重視の政策が展開されるとの見方が多い。

そのうえで、日銀が長期金利をゼロ%程度に固定する現行政策を堅持することによって、円安・物価上昇が進むと多くの幹部は想定している。

12日の会見で菅義偉官房長官は「日本企業は、米国のよき企業市民として認知されている」と強調した。

だが、20日の正式就任以降、どのような「トランプ砲」が発射されるのか、その「方向」次第では、日本政府内に再び、緊張感が張り詰める局面もありそうだ。

(梅川崇、中川泉 取材協力:竹本能文、伊藤純夫 編集:山口貴也、田巻一彦)

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