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検証アベノミクス:財政再建の評価二分、低金利継続は必至   

2016年06月28日(火)12時56分

 6月28日、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は、経済成長と財政再建の両立を掲げ、税収増と名目国内総生産(GDP)の拡大により基礎的財政収支(PB)対GDP比は改善した。写真は都内で2月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 28日 ロイター] - 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は、経済成長と財政再建の両立を掲げ、税収増と名目国内総生産(GDP)の拡大により基礎的財政収支(PB)対GDP比は改善した。だが、潜在成長率引き上げのハードルは高く、2020年度PB黒字化への筋道は見えない。

財政再建の面から見たアベノミクスについて、2人の「専門家」の評価は分かれたが、超低金利政策の長期化見通しでは一致した。

質問に回答した早稲田大学の若田部昌澄教授と慶應義塾大学の池尾和人教授の見解は、大きく異なる。その評価のギャップは、そのままアベノミクスに対する世の中の「賛否両論」を反映しているように見える。

若田部教授は、財政再建の評価点を80点とした。その根拠として、名目GDP(国内総生産)を引き上げる安倍政権の戦略を挙げた。この手法が、財政再建には最適だとし、名目GDPを分母とする財政指標は改善したと指摘した。

消費増税の延期も景気情勢から正しい判断とみるが、財政再建には税制改革が必要だと注文をつけた。

池尾教授は、30点と厳しく評価。PB黒字化目標を堅持しているとはいえ、潜在成長率の引き上げの具体的道筋が見えないと分析。消費増税の再延期は財政再建への取り組みを後退させ、高齢化進展が待ち受ける「将来」への備えより、「今」に重点を置き過ぎると指摘する。

2人の専門家の意見が、最も鮮明に分かれたのは、アベノミクスの「第1の矢」と「第2の矢」にたとえられる金融政策と財政政策の組み合わせによる政策効果の点だ。

若田部教授は、2013年の量的・質的金融緩和(QQE)の発動と、10兆円規模の経済対策の組み合わせは、その後の経済データの好転を見れば、効果を発揮したと言えるとする。

一方、池尾教授は、潜在成長率が上がっていないため、成果があったとは言えないと説明。成長率は振幅が大きくなり、トレンドとして上昇していないと分析する。

国と地方の債務残高が1000兆円を超え、財政赤字の発散リスクが一部の識者の中で指摘され出しているが、財政破たんの回避策として若田部教授は、かなり長期間にわたって低金利政策を続ける必要があるとみている。

これに対し、池尾教授は金融抑圧は必要だが、それだけで財政破たんの回避はできず、社会保障改革が必須と指摘。低金利継続自体が海外への資金流出を招きかねず、継続が困難になると予想している。

主な論点は以下の通り。

<若田部昌澄 ・早稲田大学教授>

●財政再建の評価点:80点

●その根拠:名目GDPを増やさない限り、財政再建はない。インフレ率と実質成長率の組み合わせである名目GDPを増やすという政策は、財政再建の最適戦略。

●財政再建は進捗したと言えるか:進捗したと言える。債務残高対名目GDPが安定してきたし、プライマリーバランス対名目GDP比も改善。

●その理由:消費税増税に加え、分母の名目GDPの増加と、所得税・法人税の税収増加が大きい。金融政策と当初の拡張的財政政策の効果が出ている。

●2度目の消費税延期をしたことの評価。今後の財政再建への影響:正しい判断。消費の低迷ぶりを見ても増税は到底困難。人々が次の増税を織り込み消費回復妨げぬよう増税凍結と直接税・資産税を視野に置いた税制改革を推進すべき。

●金融政策と財政政策の組みあわせが効果を発揮した点と弊害点:(異次元緩和と10兆円規模の経済対策を打った)13年の例をみれば政策の組み合わせが効果を発揮したといえる。弊害は失業率が下がらずにインフレ率が高騰するケースだが現状でそうなっていない。

●財政破たん回避のため日銀はマイナス金利政策を継続すべきか:マイナス金利政策にこだわる必要はないが、財政再建のためには金融緩和政策をかなりの期間続ける必要があるだろう。

<池尾和人・慶應義塾大学教授>

●財政再建の評価点:30点

●その根拠:PB20年度黒字化目標の旗を降ろしていない点は評価。しかし具体的な道筋示されず。単に成長だけで財政再建はできず。潜在成長率を引き上げることこそが必要。

●財政再建は進捗したと言えるか:アベノミクスで進捗したのか疑問。

●その理由:税収はリーマンショック前に戻ったのは事実だが、東日本大震災後5年を経過しての自然治癒や消費増税の効果。歳出はコンスタントに増加。

●2度目の消費税延期をしたことの評価。今後の財政再建への影響:将来への備えが余りにも手薄。政権の性格として「今」を良くすることに力点を置きすぎている。

●金融政策と財政政策の組みあわせが効果を発揮した点と弊害点:潜在成長率が上昇していないため、成果があったとは言えない。成長率は振幅が大きくなり、トレンドとして上昇していない。物価は上昇しても消費を抑圧。円安で企業収益は改善したが賃金に十分反映されなかった。

●財政破たん回避のため日銀はマイナス金利政策を継続すべきか:マイナス金利だけで財政破たんを回避することは困難。社会保障改革が必須。また低金利が長期化すると海外への資金流出が起こり、通貨防衛のため日銀は利上げが必要なケースも。

(中川泉 竹本能文 編集:田巻一彦)

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