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アングル:海外投資家が日本に集結、アベノミクスより個別企業に関心

2015年12月08日(火)16時17分

 12月8日、日経平均株価が2万円の節目を意識するなか、海外投資家も一段の日本株買いのチャンスを模索している。都内で7月撮影(2015年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 8日 ロイター] - 日経平均株価<.N225>が2万円の節目を意識するなか、海外投資家も一段の日本株買いのチャンスを模索している。運用担当者などのアベノミクスへの期待度はやや低下していたが、中小型銘柄など個別株への関心は以前より高く、個別企業との面談が急増した。

焦点はガバナンス改革で、進展を評価する声がある一方、もう一段の買いには報酬体系などの改革が必要との指摘もあった。

<5500件の個別ミーティング>

野村証券が11月30日から12月4日まで主催した「野村インベストメント・フォーラム」には過去最高となる前年比3割増の650人の海外投資家が集まった。毎年フォーラムに参加している投資家の1人は、会場のホテルで企業との面談後、昼食時にロビー階に降りる際にエレベーター待ちの列ができているのを見て、「今年はすごい人数だ。だいぶ待たないと下に降りられない」と驚いた様子だった。

フォーラムでは、企業トップらが少数の投資家を対象に戦略について説明する個別ミーティングが約5500件開催された。件数ベースでは前年比4割超の増加だ。マクロの観点ではなく、企業の個別テーマを探り、投資チャンスをつかもうとする運用担当者が増えてきたことを示した。

2000年から日本株を運するAPアセット・マネジメント・グループ(香港)のチーフ・インベストメント・オフィサー、ラファエル・ウー氏は、03年ごろから日本の中小型株も投資対象に入れたと話す。こうした銘柄群には「アベノミクスや円安効果に頼らない、魅力的な会社が多い」と指摘。サービスセクターやネット関連企業に投資妙味があるとの見方を示した。

ウー氏によると、中堅の日本企業では、かつて10社中9社が海外投資家を歓迎しない傾向があったが、経営陣の世代も変わりつつあり、今は海外投資家を歓迎する企業も増えてきた。同氏は1年に4回は日本に来て経営者と会い、「投資先を深掘りする」という。

フィデリティ・インスティテューショナル・アセット・マネジメントのポートフォリオ・マネージャー、アイリーン・M・デイヴ氏は、2013年から日本は正常化に向けたスタートを切ったと指摘。「(いま)長いベアマーケットから抜け出てきている」と分析する。アジアグロースファンドの中では12年以降、日本株にポジティブなアロケーションを維持しているという。

デイヴ氏は、社外取締役の増員などコーポレート・ガバナンスの改革について、「すべての企業とは言えないが、大きく改善してきた。そのペースも結構いい」と評価する。

<報酬体系の改革に期待>

一方、アベノミクスについては、賃金上昇などに対する前向きな評価もあったが、「かつての勢いは幾分失われた」(蘭PGGMのグローバル不動産担当シニアポートフォリオマネージャー、ハリー・デクルーン氏)と冷めた意見が少なくなかった。

海外投資家は、現物株と先物を合わせて、2013年は15.6兆円の買い越し、14年は7000億円弱の買い越しだったが、今年は11月までの累計で約1.3兆円の売り越し。「アベノミクス相場」で、日本株を押し上げた海外勢の買いの勢いは弱くなっている。

アバディーン投信投資顧問の取締役運用部長、クオック・チャーン・イェ氏は、日本株のバリュエーションは「フェアだ。割安ではない。一部の消費関連株や不動産株については割高かもしれない」とみる。「上昇余地が大きいわけではない」とも指摘する。

ハリス・アソシエイツのデービッド・ヘロー最高投資責任者(CIO)も「日本株は2011年ほどではないがモデレートにアトラクティブ」との意見だが、さらに投資妙味が増すには「(企業が)株主還元に前向きになり、コーポレートガバナンスが強化される必要がある」と話す。株主の目線に立った経営を行うには、業績連動のインセンティブを増やすため「取締役の報酬体系を考え直す必要があるだろう」と指摘した。

株主総会の議案で賛成、反対の票をいかに投じるか助言をするISSのような議決権行使アドバイザーの間でも、こうした報酬体系を議決権行使の判断基準に入れるか検討する動きがある。海外の投資家は、経営者に課せられるインセンティブが業績や株価の意識を高めるとみているためだ。

一部の海外投資家にとって、日本株は「20年間下がり続けたという印象がいまだに強い」(米系投信の運用担当者)という。このネガティブなイメージをぬぐうのは容易ではない。アベノミクスへの「熱狂」が冷めた今、日本企業が変わっていく姿勢を見せ続けることが重要といえそうだ。

(江本恵美、取材協力:植竹知子; 編集:伊賀大記)

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