コラム

トランプは大統領選に勝てない...それでも共和党が彼を切り捨てられない理由

2022年11月22日(火)12時05分
トランプ出馬宣言

トランプの出馬表明は共和党とアメリカにジレンマを突き付けた JONATHAN ERNSTーREUTERS

<2024年大統領選への再出馬を正式表明したトランプは、民主党候補が誰であれ敗北する可能性大。それでも米政治は、今後も彼に「支配」され続ける>

ドナルド・トランプがフロリダ州の別宅マールアラーゴで悪辣な言葉を並べて2024年大統領選への再出馬を正式表明した11月15日夜、会場には娘のイバンカさえ現れなかった。

その場に駆け付けた政治家は、中間選挙で落選したセクハラ疑惑まみれの若手下院議員マディソン・コーソーンぐらいのもの。「不安と絶望」「ワシントンDCの腐敗と汚職」「極左の狂気」「この破滅の国を救えるのは自分だけ」といった話が延々と続くなか、途中で帰ろうとした聴衆は警備員にドアを塞がれ、文字どおり捕らわれの身となってとどまるしかなかった。

共和党とアメリカも今、聴衆と同じジレンマに直面している。次期大統領選でトランプから逃れるすべはないのだ。

共和党内の指名獲得レースでトランプが先頭を走っているのは明らかだ。トランプは機密文書の持ち出しから金融詐欺、選挙への干渉まで数々の疑惑で有罪になるリスクを抱えており、民主党の候補者が誰であれ大統領選では敗北するだろう。それでも彼は、労働者階級に属する地方の低学歴の白人の多くと、共和党内のかなりの勢力の怒りと恐怖心を操れる存在だ。

不平不満に満ちた75分間の演説をきっちりと聞く経験は衝撃的だった。「誰もが自分を狙っている」「腐敗がひどい」といったお決まりの支離滅裂な話と、プロのスピーチライターが書いたであろう筋の通った、時に抒情的な表現が混在する演説で、トランプは普段以上にサイコパスらしい無感情の話し方をしていた。

トランプが自然にほほ笑むことはまずない。相手をにらみ、ふてくされ、自画自賛し、罵詈雑言を浴びせる。数々の法的脅威が迫るなか、トランプは20年大統領選の敗北を認められない心理状態にある。

自分に従わなければすべてを破壊する

だが、彼は怒りと憎しみをたぎらせながら自分のことばかり語る男だ(「私は天才だ」「解決できるのは私だけ」「私は選ばれし者だ」)。今回の出馬表明でも、お決まりの悪──国境の無法状態、外国からのアメリカ蔑視、冷酷なエリートたちなど──を並べ立て、アメリカ全体が自分に「忠誠」を誓わない限り「腐った」システムを丸ごと破壊する、と脅した。

もっとも、共和党に対するトランプの影響力は大統領選を制した16年当時よりも弱まっている。共和党の大物たちは、マールアラーゴでの出馬表明への出席を回避。ここにきてようやくトランプと距離を置こうとする者も現れ始めた。「現時点では彼は障害でしかない」と、共和党全国委員会のあるメンバーは語っている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英米が420億ドルのテック協定、エヌビディア・MS

ビジネス

「EUは経済成長で世界に遅れ」 ドラギ氏が一段の行

ビジネス

独エンジニアリング生産、来年は小幅回復の予想=業界

ワールド

シンガポール非石油輸出、8月は前年比-11.3% 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story