コラム

揶揄の標的にされた沖縄──ひろゆき氏発言の考察

2022年10月20日(木)12時14分

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」通称ヘイトスピーチ解消法は2016年6月に施行された。これは非常に大きいことである。しかし、ここでいうヘイトスピーチの定義は「特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動」と定義されている。

この特定の国とは中国・韓国等が念頭に置かれていると思われる。もちろんこの時点で沖縄は入っていない。これがヘイトスピーチ解消法の盲点である。まさか本法施行時点で、同じ日本国民であり47都道府県を構成する沖縄に対して、熾烈なヘイトが向けられると想定していなかったからである。

「沖縄であれば揶揄しても、茶化してもOK」という空気は、このヘイトスピーチ解消法の盲点を突いたものである。そしてこういった風潮を「意見の一部」として取り上げるメディアにも慢心がある。なぜなら「沖縄揶揄」は大きな側面で見ると、それは玉城デニー県政への批判とか、特定の市民団体への批判という、一見して「政治批評」風に解釈できない訳でもないから、「中立的な見解を相当に逸脱している」とまでは見做されない。辺野古新基地反対派に批判的な言動は、「意見のひとつ」として是認されてしまう。それに重ねて、玉城知事は公人であるから、「ある程度の批判は甘受すべきではないか」という風潮も当然出てくる。オール沖縄への批判も政治運動である以上、同様の扱いである。

実際は徹底的に沖縄を足蹴にし、沖縄の人々を揶揄し、茶化しているという「悪意」があるにもかかわらず、「それは意見の一種」だとして逃げる余地を残している。いやその余地を自覚しているからこそ、番組で取り上げるのである。沖縄は日本国土であり、沖縄県民は日本人であり、沖縄県知事は公選で選ばれた民主的決定に従っているので、批判する姿勢は妥当である―。だってこれは意見だから。という"安牌"が打てるのである。

つまりは「沖縄揶揄」はあらゆるメディアの中にあってリスクが少ない。在日コリアンであればこうはいかない。すぐに「人種差別・国籍差別」として個人を含め様々な団体から訴えられる。そして民事事件になった以上、訴えられた側―つまり被告は無傷ではない。ほぼ確実に裁判官の熟慮により被告敗訴、原告勝訴となるのである。その根拠はヘイトスピーチ規制法である。だが沖縄にはそれが無い。安心してぶっ叩くことができる―少しばかりの手加減を加えて―という具合である。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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