コラム

安倍、岸田と相次いだテロは民主主義の危機のシグナルだ

2023年04月24日(月)15時33分

ただし、こうした事件が起こってしまったからには、「動機が何であれテロはよくない」という建前論で話を終えてしまうこともできない。テロリズムの背景について詳しく分析すると実行犯に対する同情や共感を生み出してしまうので動機に深入りするべきではない、という極端な意見も存在するが、テロを生み出す内在的な政治課題を理解し、その課題に対処できなければ、次のテロを防ぐことはできない。昨年の安倍晋三元首相殺害事件で前景化した政治家と統一教会の癒着問題は、今なお未解決であるほどの大きな政治課題となった。この事件もまた、一つの社会問題として捉えたときの視点が必要になる。

政治思想の一貫性の観点から考えれば、ナショナリストが参政権の問題に強い関心を向けることはおかしな話ではない。たとえば近年日本で誕生した右翼ナショナリズム政党の名前は「参政党」なのだ。参政権を広範囲な人々に与える政治目的は、権力者の身勝手な政治を抑制し、幅広い市民の意見が尊重されるような民主政治を実現するためだけではない。ナショナリズムの視点から見れば、一人一人の国民が参政権を持つということは、国民にとって、国の政治が他人事ではなくなるということだ。つまり参政権は人々を「国民」として自覚させる重要な機能も持つ。たとえばフランスの思想家エルネスト・ルナンは、国民の精神的な統合の要件について「日々の国民投票」と述べた。

不穏な事件の連続は民主主義の危機のシグナル

選挙は国民国家にとって、国民をまとめるための一つのイベントでもある。もしある党派が選挙で敗れたとしても、それは今回の選挙で負けただけにすぎない。今後、勝利した党派の過ちを追及し自らの党派の正しさを主張していくことで、次の選挙での勝利を期待することができる、と信じることができれば、選挙結果に不満があったとしても我慢できるだろう。つまり公正な選挙は、国民国家にとっては、少数党派に属する人間が極端な行動に走ることを抑制するというメリットがあるのだ。

だが、その逆も然りなのだ。選挙制度が不公正なものになり、世襲政治・利権政治が横行するようになると、国民の多くが政治的意志決定から排除されてしまう。そうなった場合(正確に言えば、多くの人々が自分たちは政治的意志決定の場から排除されていると思ってしまったとき)、多くの人々は政治参加に無関心になり、ひいては国家の政治そのものに対する関心や責任感も失ってしまうということになる。これはナショナリストの目からみれば、大きな国家的危機に映る。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、応急管理相を調査 規律・法律違反の疑い

ワールド

25年ノーベル平和賞の情報漏れ、デジタルスパイの可

ワールド

中国、EU産乳製品調査巡り関税率引き下げ=欧州業界

ビジネス

東京外為市場・午前=ドル155円挟み上下、日銀タカ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story