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安倍、岸田と相次いだテロは民主主義の危機のシグナルだ
ただし、こうした事件が起こってしまったからには、「動機が何であれテロはよくない」という建前論で話を終えてしまうこともできない。テロリズムの背景について詳しく分析すると実行犯に対する同情や共感を生み出してしまうので動機に深入りするべきではない、という極端な意見も存在するが、テロを生み出す内在的な政治課題を理解し、その課題に対処できなければ、次のテロを防ぐことはできない。昨年の安倍晋三元首相殺害事件で前景化した政治家と統一教会の癒着問題は、今なお未解決であるほどの大きな政治課題となった。この事件もまた、一つの社会問題として捉えたときの視点が必要になる。
政治思想の一貫性の観点から考えれば、ナショナリストが参政権の問題に強い関心を向けることはおかしな話ではない。たとえば近年日本で誕生した右翼ナショナリズム政党の名前は「参政党」なのだ。参政権を広範囲な人々に与える政治目的は、権力者の身勝手な政治を抑制し、幅広い市民の意見が尊重されるような民主政治を実現するためだけではない。ナショナリズムの視点から見れば、一人一人の国民が参政権を持つということは、国民にとって、国の政治が他人事ではなくなるということだ。つまり参政権は人々を「国民」として自覚させる重要な機能も持つ。たとえばフランスの思想家エルネスト・ルナンは、国民の精神的な統合の要件について「日々の国民投票」と述べた。
不穏な事件の連続は民主主義の危機のシグナル
選挙は国民国家にとって、国民をまとめるための一つのイベントでもある。もしある党派が選挙で敗れたとしても、それは今回の選挙で負けただけにすぎない。今後、勝利した党派の過ちを追及し自らの党派の正しさを主張していくことで、次の選挙での勝利を期待することができる、と信じることができれば、選挙結果に不満があったとしても我慢できるだろう。つまり公正な選挙は、国民国家にとっては、少数党派に属する人間が極端な行動に走ることを抑制するというメリットがあるのだ。
だが、その逆も然りなのだ。選挙制度が不公正なものになり、世襲政治・利権政治が横行するようになると、国民の多くが政治的意志決定から排除されてしまう。そうなった場合(正確に言えば、多くの人々が自分たちは政治的意志決定の場から排除されていると思ってしまったとき)、多くの人々は政治参加に無関心になり、ひいては国家の政治そのものに対する関心や責任感も失ってしまうということになる。これはナショナリストの目からみれば、大きな国家的危機に映る。
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