コラム

『テルマエ・ロマエ』で観光客を誘致する駐日イタリア大使に聞く

2019年11月25日(月)19時00分

日本のどこに行っても感動する、というスタラーチェ駐日イタリア大使 (筆者撮影)

イタリアは世界5位の観光大国ですが、その地位にあぐらをかいていると思ったら大間違いです。数年前、観光政策を180度転換しました。

そのよい例が、在日イタリア政府観光局がヤマザキマリの人気コミック『テルマエ・ロマエ』をフィーチャーして作った観光プロモーション動画8本。海や山、芸術、音楽、食など、伝統的な観光名所よりもイタリア各地の自然や文化に焦点を当てたショート・ムービーは、記者会見でも大好評でした。ソフト・パワーとマクロ経済を上手く組み合わせたビジョンが見事です。

会見後、ジョルジョ・スタラーチェ駐日イタリア大使に話を聞きました。

──21世紀はソフト・パワーの時代と言われますが、文化的な外交は効果的なのでしょうか。

ソフト・パワーは外交手法の一つではなく、外交そのものです。外交は単純に言えばコミュニケーションです。昔のように密室で交渉をするより、SNSを使って方向性を発表した方がよほど効果的なコミュニケーションになります。

日本でイタリアが人気なのは、官僚による難しい計画の結果ではなく、SNSによるソフト・パワー外交の結果です。イタリアでも、日本という国の人気は圧倒的に若い世代に支えられた運動です。イタリアの若い世代も文化を通じて日本を知ったのです。

経済大国の日本がイタリア経済に与えるポジティブな影響もありますが、イタリア人がもともと日本に好感を持っているのでなければそれもうまく行きません。日本の映画、日本の現代建築、最近は日本の漫画が私の母国で大人気です。

──日仏共催でパリで開催された「ジャポニスム2018」はまさにその好例でしたが、あれが大人向きだとしたら、今回のテルマエ・ロマエPRキャンペーンは日本の若者向きでしょうか。

必ずしも特定の世代を目標にしているのではなく、イタリアの価値観である娯楽、ユーモア、美学、歴史というキーワードを体現したムービーなのです。

──日本が恐れている東京オリンピック中の観光客ラッシュやいま問題になっている京都の大混雑などはどうご覧になりますか。

日本の観光庁はイタリアを手本にしていると聞きました。特にイタリアが数年前から打ち出した「観光の地方分権化」です。

世界の観光客は今、ナポリ、アマルフィ、ポジターノ、シエナ、トリノなどを筆頭に、イタリアの未知の地方を発見しています 。もはや、ミラノ、フィレンツェ、ローマという三大都市中心の時代ではありません。

日本の観光客はイタリアのアグリツーリズム(農家に泊まって田舎の生活を楽しむ体験型ツーリズム)を喜びますし、日本政府も参考にしているそうです。観光名所からニュー・デスティネーション(新たな目的地)への展開ですね。

私自身は、日本国内のどこに出張しても、その地方の伝統や産物に夢中です。とりわけ、日本の地方グルメはイタリアを連想させるほど豊かで、大勢の外国人を魅了するポテンシャルを秘めています。

20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ安全保証、西側部隊のロシア軍撃退あり得る

ビジネス

半導体製造装置販売、AIブームで来年9%増 業界団

ワールド

アルミに供給不安、アフリカ製錬所が来年操業休止 欧

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story