コラム

「民主・みんな連立政権」で政治は変わるか

2010年04月22日(木)17時45分

 夏の参院選について、いろいろな週刊誌の予想が出てきたが、民主党が過半数を大幅に割り込んで野党が多数になる「ねじれ」が起こると予想する点で一致している。問題は、民主党がどの野党と組むかである。それは選挙結果しだいだが、野党第2党がみんなの党になるという予想も一致しているので、社民党・国民新党との連立を解消しても「民みん連立政権」で過半数になる場合は、そういう組み替えが起こる可能性がある。

 自民党から、みんなの党の渡辺喜美代表と政策的に近い河野太郎氏や中川秀直氏などが合流すれば、みんなの党はかなり大きな勢力になる。場合によっては、鳩山首相が退陣して渡辺氏が首相になるかもしれない。連立政権でキャスティング・ボートを握る小党の党首が首相になることは珍しくなく、日本でも自社さ連立政権で社会党(当時)の村山富市委員長が首相になった例がある。

 これは今の混迷する政治状況を変えるかもしれない。社民党のために行き詰まっている沖縄の基地移転を白紙に戻し、国民新党のための郵政国営化を中止するだけでも、混乱はかなりおさまるだろう。労組出身者の影響力が強いため、極左的な方向に流れている鳩山政権のバイアスも、かなり中立に戻る可能性がある。

 しかし、みんなの党の政策は、率直にいってかなりお粗末だ。最大の争点である財政については「増税の前にやるべきことがある!」として、消費税の増税や財政再建の見通しについて何もふれていないのは民主党と同じだ。財源を特別会計の「埋蔵金」で捻出するという話も民主党と同じで、こんな空想的な財政政策は、政権に入ったら破綻することは必至である。

 成長戦略として「産業構造を従来型から高付加価値型へ転換。ヒト、モノといった生産要素を、予算、税制等で成長分野へシフトする」という効率化の方向を打ち出しているのはいいが、具体策となると環境・福祉など、民主党と同じような産業政策が並ぶ。「物価安定目標」(インフレ目標?)が、成長戦略の中にまぎれこんでいるのは奇妙だし、派遣労働の規制強化を打ち出しているのも民主党と同じ愚かな政策である。法人税の減税と租税特別措置の見直しを打ち出しているのが評価に値するぐらいだ。

 もう一つの大きな争点である年金改革も「基礎年金部分を抜本改革」と書いてあるだけで、まったく具体策がない。基礎年金を消費税でまかなうというのが多くの経済学者の提案している(民主党もかつて提案した)案だが、そのためには消費税の引き上げが必要なので、年金改革の構想が描けないのだろう。

 全体として、みんなの党の経済政策は民主党のポピュリズムと大同小異なので、よくも悪くも民みん連立政権ができる可能性は高いが、それによって経済が改善されることもあまり期待できない。ただ渡辺代表が「小さな政府」という理念を打ち出していることは、民主党のバラマキ福祉路線にブレーキをかける効果が期待できる。みんなの党が批判している子ども手当を中止するだけでも5兆円以上の歳出が減らせる。

 経済政策でみる限り、民主党も自民党もみんなの党も落第だが、ほとんど0点に近い民主党と30点ぐらいのみんなの党が連立を組めば、10点ぐらいの政策にはなるかもしれない。それでも現状よりはましだ――というのが日本の悲しい政治状況である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story