コラム

温もりのある声で癒しを 感情労働ストレスを軽減させた取り組み

2017年09月10日(日)15時30分

韓国の企業はどこもコールセンターの職員らが感情労働をしていてストレスをため込んでいることをよく知っている。そのため大手企業はコールセンターの勤務環境をよくし、退職率を減らすためあらゆる対策を講じている。だが、カウンセリングを受けさせる、特別休暇を与える、社員向けパーティーを開いたなどあらゆる対策を講じたというニュースはあっても、これといった効果があったという話は聞こえてこない。

そこで石油会社GSカルテックスの社会貢献キャンペーンを担当している広告代理店が、「ため込んだストレスを解消する対策より、ストレス要因を事前にシャットアウトする方法を試してみよう」と提案。韓国GMが自社のコールセンターでこのキャンペーンをやってみたいと同意した。そして対応策として保留音を変えた結果、驚きの効果があった。


■韓国で感情労働者のストレスを半減させたGSカルテックスのキャンペーン動画 (c) GS Caltex / YouTube

キャンペーン紹介動画は暴言を吐く声で始まる。そしてコールセンターの女性職員らが登場し、「(暴言を聞いた時)最初は手が震えました」、「なんで私暴言を聞かないといけないのだろう。家に帰れば私だって大事な娘なのに」。「誰もが知っているけど変えられなかったこと。だから変えてみようと思います」というナレーションに続いて特別な保留音を録音する様子が流れる。

声優ではなく一般の人を集めて、中年男性の声で「やさしくてまじめなうちの娘におつなぎします」、若い男性の声で「愛するうちの妻が対応します」、子供の声で「私が世界で一番好きなママが対応します」と録音した。2017年6月末から韓国GMのコールセンターでは、いつもの音楽と一緒に流れる「しばらくお待ちください」の保留音の代わりに、この声を保留音にした。

保留音を変える前と変えてから5日後、コールセンター職員にアンケート調査を行った。保留音を変える前、ストレスを感じていると答えたコールセンター職員は保留音を変える前は79%だったが、変えた後は25%しかいなかった。自分が尊重されていると感じると答えたコールセンター職員は0%から25%に増えた。顧客からのやさしい言葉も58%から66%へ増加した。電話に出るなり苦情をまくしたてる顧客が減り、不便なことや修理を依頼したいことをやさしく話してくれるようになったという。キャンペーンが話題になると、保留音を聞くためだけに電話して、とてもいいキャンペーンだとコメントを残す人もいるのだとか。

【参考記事】地域活性化アイデアで生まれ変わる廃校、少子高齢化進む農漁村に新たなビジネスチャンス
【参考記事】高校生たちが考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story