コラム

「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAXA宇宙研・藤本正樹所長に聞いた「科学的に正しく怖がる方法」

2025年05月03日(土)10時50分

藤本 今までは、「研究者でない一般の人は宇宙に関する科学的思考の訓練なんて面倒くさいし時間もかかるしやりたくないだろう。だから、結果の部分を分かりやすく説明してあげればいい」とだけ思っていたんですよね。

でも、今回の7月5日説に関しては、ご自身でステップを踏んで考えてもらうのが良いのかもしれませんね。それこそ「分かり方を分かって」もらって、「自分で納得して分かる」ように持っていくのが大事ということです。

入口が「天体が地球に落ちて災害が起こるかもしれない」というご自身の興味なので、「事実を確認するステップはこうですよ」っていうのは見せていくことが必要なのかもしれませんね。


 非専門家が「自分で納得して分かる」題材として、宇宙というのは科学の中でも数学や有機化学などと比べて、ストーリーを思い浮かべやすかったり、自分ごととして考えやすかったりするので、とっつきやすいと思います。

藤本 今回のインタビューは、こういうことを考えるきっかけになったので、すごくありがたいと思っているんです。茜さんに「一般の人には衝突可能性のある小惑星の一覧がどこにあるか分からないのに、『ウェブページに載ってます』で片付けるのは最悪だろう」みたいな指摘をされて良かったな、と。

それぞれの方が自分で考えて「ああそうなんだ」ってなって分かることが大切なんだと改めて思いました。「自分で考えて分かるとすっきりするよ、楽しいんだよ」って伝えたいですね。科学の文法みたいなのものに興味を持ってもらえると、オカルト信仰に対する防波堤になるかもしれませんね。

 本日はどうもありがとうございました。

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藤本所長 筆者撮影

インタビューを終えて

宇宙の話題は嫌いな人がいないのではないかというくらい、老若男女、文系理系を問わずに人気があります。

JAXAは成果を頻繁に出しておりニュースになることも多いので、「アウトリーチ」に関する藤本所長の日頃の悩みや「地球防衛」での戸惑いは意外でした。

さらに、研究者と私たちの間は「情報の伝え手と受け手」の一方向の関係になっているようで、そうでもないことが分かりました。藤本所長が「みなさんの応援が本当に力になった」と語るにつれ、科学者に人間臭さを感じ、宇宙研究がより身近に感じました。

科学者はどのようにして地球防衛に臨んでいるのか。そのプロセスに思いを馳せることが、宇宙への正しい理解、ひいては自分たちの生活を守ることへの近道になるのかもしれません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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