コラム

羽生結弦選手が卒論で語るフィギュア採点の未来

2021年11月09日(火)11時45分

フィギュアのシングル競技は、ショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)の2演技の合計点で競います。それぞれの演技は、技術点と演技構成点で採点されます。技術点では、選手が決められた数のジャンプ、スピン、ステップを実施し、審判員が個々の要素を基礎点と出来栄え点で評価します。演技構成点では、スケーティング技術、技のつなぎ、演技力、プログラムの構成、音楽の解釈の5項目を評価します。

技術点では、ジャンプが最も数の多い要素で、配点も高いです。後向きと前向きのどちらに滑って跳ぶか、踏み切る時にスケート靴のつま先(トウ)を突くか突かないか、刃(エッジ)の内側・外側のどちらを使うかの違いで6種類のジャンプがあり、回転数が増えるほど高難度で基礎点も高くなります。

たとえば羽生選手の平昌五輪のFSでは、109.55点のうち8つのジャンプの合計は87.75点、3つのスピンは計13.07点、2つのステップは計8.73点でした。つまり、基礎点が高い4回転や3回転半のジャンプを、高い出来栄え点で飛べる者が極めて有利になる競技なのです。

オリンピックに採用されている競技では通常、五輪直後に大きなルール変更があり、新ルールで次の五輪まで戦います。

フィギュア男子シングルで平昌五輪と最も大きく変わったのは、ジャンプの点数の付け方です。平昌五輪後の変更で、技術点のうち4回転ジャンプの基礎点は軒並み下げられました。いっぽう、出来栄え点は+3から-3までの7段階評価から、+5から-5までの11段階評価に拡大されました。

平昌五輪までは、4回転ジャンプは基礎点の高さから「転倒や多少の回転不足があっても飛んだほうが得」という面が否めませんでした。けれど新ルールでは、転倒には-5,回転不足には度合いに応じて-1から-3と、出来栄え点で大きなマイナスが付けられます。北京五輪では、試合に勝つためには、より質の高いジャンプを成功させることが求められます。

AI採点導入の議論も

ジャンプの採点は、3人の技術審判員によって行われています。回転不足が疑われる場合は映像を見直して判断しますが、基本的に演技の流れの中で瞬時に採点し、次の選手の演技前までに確定します。オリンピックや世界選手権では30人もの選手の演技を、公平を期すために同一の審判団が採点します。大変な労力ですし、「疑惑の採点」が話題になることもありました。

フィギュアと同じ採点競技である体操競技では、「審判の目だけで見るには限界がある」と、AI自動採点システムが2019年の世界選手権で一部競技に正式採用されました。フィギュアでも、技術点にはAI採点が導入できるのではないかと議論されていますが、まだ実現はしていません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防次官と韓国国防相が会談、原子力潜水艦巡る協力

ワールド

衆院選、与党で過半数取れなければ「即刻退陣する」=

ワールド

台湾、中国軍指導部の「異常な」変化を注視

ビジネス

日経平均は反落、急速な円高進行を嫌気
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 10
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story