インド映画界「ボリウッド」で進む「生成AI」利用...収益押し上げコスト削減
旧作に新しい結末を
インドの映画会社で米株式市場に上場するエロス・メディア・ワールドは昨年、13年のヒット作「ラーンジャナー」にAIによる改変を加えて再公開した。オリジナルでは主人公が死ぬという悲劇的な結末だったが、新たなラストシーンでは、涙ながらに微笑む恋人の前で、死んだはずの主人公が目を覚ますという驚きの展開が描かれている。
この改変は反発を招いた。主演俳優のダヌシュはXで、AIによるリメークは「映画から魂を剥ぎ取った」ものであり、「芸術とアーティストの両方にとって極めて憂慮すべき先例」を作ったと述べた。
それでも、「ラーンジャナー」のリメイク版は観客を呼び寄せた。インド最大の映画館チェーン、PVRイノックスによると同作のタミル語版は公開初月の8月、座席販売率が35%に達した。これは25年の平均を12ポイント上回る数字だ。
エロス・メディアはさらに踏み込もうとしている。同社のグループCEOであるプラディープ・ドゥイベディ氏はロイターに対し、スタジオが保有する3000本の旧作を精査し、「AI支援による再構成に適した候補を特定している」と話した。同グループのインド部門であるエロス・インターナショナルは昨年、連結営業収益が44%減少したことを受け、「デジタルプラットフォームとの競争」が発生していると警告した。
「これは収益の機会であると同時に、クリエーティブな刷新戦略でもある」とドゥイベディ氏は述べた。
こうした改変は、ハリウッドでは壁に阻まれる恐れがある。米俳優組合(SAG─AFTRA)との合意に基づき、映画スタジオは出演者の同意なしにデジタルで演技を改変したり、デジタル複製を作成したりすることはできない。全米監督協会の契約でも、スタジオが監督に相談せずにクリエイティブな決定にAIを使用することを禁じており、AIが組合員の仕事をすることも認められていない。
対照的に、インドの映画スタジオはAIを用いた積極的な実験に取り組んでいる。数億人もの敬虔な信奉者を抱えるヒンドゥー教の神話もその題材だ。コレクティブはハヌマーンやクリシュナといった神々を描いた8つのAI生成作品を計画している。
インドの大富豪ムケシュ・アンバニ氏率いる大手財閥リライアンスとウォルト・ディズニーの合弁メディア会社ジオスターは、古代ヒンドゥー叙事詩「マハーバーラタ」のAI生成版を放映している。これはコレクティブの映画用AI研究部門から生まれた初のシリーズ物だ。
王位継承戦争を描いたこの物語のAI版は、10月にジオスターの配信サイトで公開されて以来、少なくとも2650万回の視聴を記録したという。1988―90年に放送された旧版は2億人の視聴者を集めていた。
だが、この番組に対する観客の評価は厳しい。映画情報サイト「IMDb」での評価は10点満点中1.4点にとどまっており、レビュアーからはリップシンク(口の動きとセリフの同期)が不十分だとの批判や、低品質な画面があるといった指摘もある。
ジオスターの幹部アロック・ジェイン氏はロイターに対し、反応は「称賛と並んで、建設的な議論が巻き起こっている。野心的なクリエイティブの飛躍には当然のことだ」と語った。AI活用によるオリジナルストーリーの製作も検討しているという。
業界関係者には、映画製作におけるAIの台頭を嘆く人もいる。ハリウッドのスタジオと仕事をしてきた米国の脚本家兼プロデューサーのジョナサン・タプリン氏は、長編全編をAIで生成することは「映画史に対する冒涜(ぼうとく)だ」と批判。「映画館やスクリーンは、ありきたりな駄作で埋め尽くされるだろう」と警告した。





