最新記事
映画

インド映画界「ボリウッド」で進む「生成AI」利用...収益押し上げコスト削減

2026年4月10日(金)14時40分

旧作に新しい結末を

インドの映画会社で米株式市場に上場するエロス・メディア・ワールドは昨年、13年のヒット作「ラーンジャナー」にAIによる改変を加えて再公開した。オリジナルでは主人公が死ぬという悲劇的な結末だったが、新たなラストシーンでは、涙ながらに微笑む恋人の前で、死んだはずの主人公が目を覚ますという驚きの展開⁠が描かれている。

この改変は反発を招いた。主演俳優のダヌシュはXで、AIによるリメークは「映画から魂を剥ぎ取った」ものであり、「芸術とアーティストの両方にとって極めて憂慮すべき先例」を作ったと述べた。

それでも、「ラーン‌ジャナー」のリメイク版は観客を呼び寄せた。インド最大の映画館チェーン、PVRイノックスによると同作のタミル語版は公開初月の8月、座席販売率が35%に達した。これは25年の平均を12ポイント上回る数字だ。

エロス・メディアはさらに踏み込もうとしている。同社のグループCEOであるプラディープ・ドゥイベ⁠ディ氏はロイターに対⁠し、スタジオが保有する3000本の旧作を精査し、「AI支援による再構成に適した候補を特定している」と話した。同グループのインド部門であるエロス・インターナショナルは昨年、連結営業収益が44%減少したことを受け、「デジタルプラットフォームとの競争」が発生していると警告した。

「これは収益の機会であると同時に、クリエーティブな刷新戦略でもある」とドゥイベディ氏は述べた。

こうした改変は、ハリウッドでは壁に阻まれる恐れがある。米俳優組合(SAG─AFTRA)との合意に基づき、映画スタジオは出演者の同意なしにデジタルで演技を改変したり、デジタル複製を作成したりすることはできない。全米監督協会の契約でも、スタジオが監督に相談せずにクリエイティブな決定にAIを使用することを禁じており、AIが組合員の仕事をすることも認められていない。

対照的に、インドの映画スタジオはAIを用いた積極的な実験に取り組んでいる。数億人もの敬虔な信奉者を抱えるヒンドゥー教の神話もその題材だ。コレクティブはハヌマーンやクリシュナといった神々を描いた8つのAI生成作品を計画している。

インドの大富豪ムケシ‌ュ・アンバニ氏率いる大手財閥リライアンスとウォルト・ディズニーの合弁メディア会社ジオスターは、古代ヒンドゥー叙事詩「マハーバーラタ」のAI生成版を放映している。これはコレクティブの映画用AI研究部門から生まれた初のシリーズ物だ。

王位​継承戦争を描いたこの物語‌のAI版は、10月にジオスターの配信サイトで公開されて以来、少なくとも2650万回の視聴を記録したと⁠いう。1988―90年に放送された旧版は2億人の視聴者を集めていた。

だが、この番組に対する観客の評価は厳しい。映画情報サイト「IMDb」での評価は10点満点中1.4点に​とどまっており、レビュアーからはリップシンク(口の動きとセリフの同期)が不十分だとの批判や、低品質な画面があるといった指摘もある。

ジオスターの幹部アロック・ジェイン氏はロイターに対し、反応は「称賛と並んで、建設的な議論が巻き起こっている。野心的なクリエイティブの飛躍には当然のことだ」と語った。AI活用によるオリジナルストーリーの製作も検討しているという。

業界関係者には、映画製作におけるAIの台頭を嘆く人もいる。ハリウッドのスタジオと仕事をしてきた米国の脚本家兼プロデューサーのジョナサン・タプリン氏は、長編全編をAIで生成することは「映画史に対する冒涜(ぼうとく)だ」と批判。「映画館やスクリーンは、ありきたりな駄作で埋め尽くされるだろう」と警告した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、台湾周辺に艦船100隻展開 異例の規模で警戒

ビジネス

安川電機、今期純利益33%増見込む AI・半導体関

ワールド

エクアドル、対コロンビア関税100%に引き上げ 国

ビジネス

良品計画、今期純利益予想を上方修正 中東情勢「消費
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 7
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 8
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中