最新記事
BOOKS

原発と「戦争」...福島県飯館村で震災後、102歳の農民が「死」を選んだのはなぜか

2026年3月31日(火)17時20分
印南敦史 (作家、書評家)

「ちぃっと長く生きすぎたなぁ。イヤなものを見ちまった」

しかし、「ここは原発からずいぶんと遠く離れてるんだ。そんなに心配することはねえし、きっと大丈夫だろ」というじいちゃんの楽観は、時間の経過とともに否定されていくことになる。ニュースでも、村が高度に汚染されたことを示唆する報道が増え始めた。

次々と報じられるニュースは、「なにもないけれど自然豊かで美しい村」の山々や田畑、そして水までが汚染され、畜産業なども完全に破壊されつつあることを物語っていた。

そして、避難の必要性が現実味を帯びてくる。

居間の座椅子に腰かけてテレビ画面を凝視していたじいちゃんも、次第に口数が少なくなり、表情には憂いの気配が深まっていったという。美江子さんもじいちゃんに、避難の必然性を訴え続けた。


「でもオレ、ここを離れたくねえなぁ......」(97ページより)

「もし避難することになったとしても、みんな一緒だから大丈夫」という言葉に「そっかぁ......」と答えるじいちゃんの表情や態度は、大きく変わったようには見えなかった。


ただ、しばらく呆然とした様子で虚空を見つめていた文雄は、両手で幾度か頭を抱えるような仕草をし、ごく小さな声でぽつりとこうひとりごちたのを、美江子はいまも耳朶の奥に残ったまま忘れられずにいる。
「ちぃっと長く生きすぎたなぁ。イヤなものを見ちまった......」
 そして文雄は、
「ちょっと疲れたから、部屋で横になってひと眠りしてくる」
 と言い残して居間から出ていった。美江子は黙ってその背を見送るしかなかった。(97ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石油は米から買うかホルムズ海峡へ取りに行け、トラン

ワールド

ブチャ虐殺から4年、EU外相ら現地訪問 支援再確認

ワールド

中国、EU議員団の8年ぶり訪中を歓迎 関係安定化に

ワールド

イスラエル、レバノン南部に緩衝地帯設置へ 国防相表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 5
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中