E・H・カーの『危機の二十年』を21世紀の今、どう読むべきか?...「ユートピアニズム」と「リアリズム」の2つの系譜
19世紀のイギリスにおいて、そのようなユートピアニズム思想を生み出す土壌となった啓蒙思想は、合理主義的精神や功利主義思想と結びついており、「利益の調和」としてのレッセフェール思想と大きく重なっていた。
19世紀イギリスで浸透していたそのような「利益の調和」を前提としたユートピア主義の思想を、カーは『危機の二十年』のなかで、次のように厳しく批判している。
利益調和説の一般化に主たる役割を果たしたのは、アダム・スミスが創始した自由放任主義政治経済学派である。
この学派の目的は、経済事象に対する国家管理を排除していくことであった。この政策を正当化するために、同学派は次のことを示そうとした。
すなわち、共同体の利益が個人の利益に一致するというまさにその理由から、個人は外部の干渉を受けずに、間違いなく共同体の利益を推進することができる(*2)
その上でカーは、「利益調和への信念が存続しえた」条件として、「生産・人口・繁栄の比類ない拡大」が存在していたことを強調する(*3)。
この19世紀のイギリスにおいては、産業革命による生産の拡大や、社会の進歩や帝国主義などに伴う人口の拡大という、レッセフェールが実現可能な特殊な環境が整っていた。それは必ずしも、あらゆる時代の、あらゆる国家に適用可能な思想ではなかった。
そのような19世紀イギリスの古典的自由主義に基づいたレッセフェール思想が、20世紀になってグローバルな規模で、あらゆる国家にも応用可能だとみなされるようになった。そして、それが新しい平和思想の潮流を生み出していく。
だが、カーはそのようなレッセフェール思想がイギリスを越えて普遍的な原理として拡散していった現実を、次のように述べている。
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