最新記事
ウクライナ戦争

ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も阻まれ「弾除け」たちの不満が爆発か

2025年1月9日(木)17時31分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
ロシアに派遣された北朝鮮兵士たちの混乱と腐敗

10月にインターネットに投稿されたロシア国内で訓練を行う北朝鮮兵士たちとされる映像より EYEPRESS via Reuters Connect

<12月末に「誤射」で射殺されたロシア兵は、北朝鮮兵が戦場から逃げられないよう退路をふさいでいたという。ウクライナで腐敗と混乱が深まる北朝鮮部隊の実態とは>

米ラジオ・フリー・アジア(RFA)が親ロシアのテレグラムチャンネル「クレムリンウインド」を引用して報道したところによると、ウクライナ軍が占領するロシア西部クルスク州の前線で12月29日、北朝鮮兵がロシア兵3人を射殺する「事故」が発生したという。

■【動画】ロシア軍に合流した北朝鮮兵が、夢中になって「下品な動画」を見ている現場の映像がSNSで話題に

報道によると、射殺されたロシア兵は、ウクライナ軍の攻撃を受ける北朝鮮軍部隊が戦場から離脱できないよう、退路をふさいでいた。これに対して北朝鮮兵1人が銃撃を加えて射殺してしまったという。

クレムリンウインドの情報では、「言語の壁」を原因とした「誤射」だったとされているが、本当にそうだろうか。

現地ではすでに、別の場面でも北朝鮮軍の誤射が発生しており、言語の壁によってそうした事故が起きる蓋然性はじゅうぶんにある。しかし、ロシア兵が退却を阻んでいた状況を考えれば、恐怖で混乱した、あるいはロシア軍への不満を爆発させた北朝鮮兵が、半ば意図的に引き金を引いたとしてもおかしくはない。

(参考記事:【写真】敵よりロシア軍を「火の海」にする北朝鮮のトンデモ兵器

そもそも、言語の問題によりこうしたトラブルが起きることは、じゅうぶんに予想されていたことだ。1万人を超える北朝鮮兵との意思疎通のため、ロシア軍はいったいどれだけの通訳を揃えることができたのだろうか。実弾が飛び交う前線での通訳は、「ちょっと話せる」程度の能力では不足だろう。そう考えると、ロシア軍は言語の問題をまったく解決できていないのかもしれない。

だから、北朝鮮軍の派兵が明らかになったとき、戦場ではロシア軍から独立して行動すると予想した専門家も少なくなかった。しかしどうやら、現実はそのようになっていない。

理由は様々あるだろうが、北朝鮮軍の指揮官たちの能力不足も一因だろうと筆者は疑っている。

核戦力を除けば、北朝鮮軍は「ハリボテ」に等しい。装備は老朽化して使い物にならず、兵士は飢え、軍紀は乱れ切っている。

(参考記事:女性少尉を性上納でボロボロに...金正恩「赤い貴族」のやりたい放題

そんな軍隊にあって、指揮官たちの士気やモラルだけが高尚な状態を維持しているとは思えない。どんなに作戦を研究して訓練を積んだところで、米韓軍に勝てないのは明らかなのだ。「やってもムダ」と諦めるのがむしろ人情だろう。

そうなれば、軍人のやることはただひとつだ。ワイロやお世辞で上官に取り入り、権力の階段を上るのだ。そうしてこそ、自分もワイロを受け取る地位を確保できる。

そんな状態だから、ロシアは北朝鮮軍に独立した行動など認めるわけがない。かくして、北朝鮮兵は求められるがままに「弾除け」として投入され、現場での事故も多発するのである。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中