最新記事
荒川河畔の原住民⑫

日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う

2024年11月20日(水)20時00分
文・写真:趙海成

桜が満開になった上野公園

桜が満開になった上野公園。ホームレスの姿はほとんど見当たらない

桂さんの娘は、近所の人に自分の父親がホームレスであることを知られたくないに違いない。父親である桂さん自身も、自分の身分のために娘が他人に軽蔑されることを決して望んでいない。

だからこそ、彼らは互いに連絡を取り合うのを避け、それぞれの生活をただ静かに過ごしたいと望むのだ。このような親子関係はホームレスの中には少なくないと思う。これもホームレスの宿命の1つだろう。

また、別の機会に桂さんは、毎年高校の同窓会に参加しているのだと教えてくれた。連絡をくれる同級生がいるのだろう。それを聞いて、私はすぐに尋ねた。

「昔の同級生たちはあなたが今何をしているか知っていますか?」

こんなことを聞くのは本当に道理をわきまえないだろうし、この前、家族の話で桂さんに傷を付けたばかりだ。今度はその傷口に塩を振りかけることになった。根掘り葉掘り聞くのは悪いとは思ったが、ジャーナリストの癖として仕方がない。

「同級生にそんなことを言えるもんか」桂さんは私をにらんでそう答えた。

中国では、同窓会が開かれると、今の生活状況よりも昔の話が話題の中心になるのが普通だ。日本もきっと同じだろう。

みんな同じ校門から出て行ったが、その後の道は千差万別だ。数十年経って再会したとき、「功名成就」つまり輝かしい出世を果たした者もいれば、そうではなく、平々凡々で成すところがなかった人もいる。

そこで適切な今の話題といえば、財産の多さではなく、体調や運動や趣味になると思う。ある意味でこれは、桂さんの優位性を際立たせられる話題かもしれない。同級生の中で、財産から見れば彼が最も貧しいのだろうが、こと健康や自由については、彼にかなう人はなかなかいないだろう。

※4ページ目の支援者に関するエピソードの一部を削除しました(2024年12月6日)。

※ルポ第13話:ホームレスは助け合うのか、それとも冷淡で孤独なのか...不思議な「兄弟分」の物語 に続く


[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中