最新記事
ユダヤ国家

イランが手を下すより先に自滅の道をひた走るイスラエル

ISRAEL IS ENABLING IRAN’S WAR OF ATTRITION

2024年7月29日(月)18時31分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
イランのテヘランにあるイスラエル滅亡までのデジタルカウントダウン時計

テヘランに設置されたイスラエル滅亡までのカウントダウン時計 AP/AFLO

<神が敵を滅ぼしてイスラエルに土地を与える、と信じる狂信者たちがネタニヤフの協力を得て、イランがなし得る以上の勢いでユダヤ人国家を滅亡させようとしている>

イスラエルが2040年に滅亡するまでの日数を表示したカウントダウン時計が、イランの首都テヘランに現れたのは2017年。パレスチナ広場に設置されたその時計は、ユダヤ国家を滅ぼすというイランの長年のコミットメントを体現するものだ。

イラン革命を率いた故ルホラ・ホメイニ師は、イスラムの衰退は外国の陰謀が原因だとし、欧米列強がシオニズムを利用して中東に侵入していると非難。これに基づけば、エルサレムをイスラエルの支配から解放し、ユダヤ国家を破壊することがイスラムの再生につながることになる。


懸念すべきはイラン政府内に、今こそこの神聖な目標を達成すべき時だと考える向きが多いことだ。イスラエル軍が昨年12月、シリアを空爆し、イラン革命防衛隊の上級将官を殺害したことを受け、同隊のホセイン・サラミ司令官は「イスラエルを地上から消し去る」と宣言した。

アドルフ・ヒトラーからウラジーミル・プーチン、さらにはウサマ・ビンラディンまで、イデオロギーに触発された脅威は額面どおりであることを、歴史は教えてきた。けれどもイランは慎重に行動している。過激であることが、必ずしも非合理で自滅的であるとは限らない。

ガザ戦争では、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、ガザを実効支配するイスラム組織ハマス、ヨルダン川西岸のイスラム聖戦などの代理勢力がイスラエルを包囲。イランは直接対決を避け、イスラエルを消耗させることを狙っている。

イランが代理戦争に力を入れるようになったのは、ハマスがイスラエルを孤立化させ、弱点を露呈させるという驚くべき能力を発揮したからだ。ハマスによる昨年10月7日のイスラエル攻撃は、イスラエルとの国交正常化を考えていたサウジアラビアの計画を頓挫させた。アメリカが支援するアラブのスンニ派とイスラエルが反イラン同盟を組むというバイデン政権の壮大なビジョンは水泡に帰した。

このところイランの核兵器開発に憂慮すべき進展があるとの見方もあるが、イランがテルアビブに向けて核ミサイルを発射するというわけではない。むしろこの核の傘を利用し、通常兵器を使ってイスラエルを弱体化し崩壊させる可能性がある。

イスラエルがレバノンを攻撃したら「抹殺戦争」を起こすとイランが警告しているのは、イスラエルを抑止し、レバノンとの非核戦争を防ぐためだ。

こうした背景を考えると、イランが仕掛ける消耗戦を助長しているのは、実はイスラエル政府だとも言える。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中