最新記事
シンガポール

ローレンス・ウォン新首相誕生:シンガポールの繁栄は続くか?

End of an Era in Singapore

2024年5月20日(月)13時00分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)

経済に関しては、前任のリー・シェンロンがシンガポールを世界のトップクラスに引き上げた。IMFのデータによれば、この国の1人当たりGDPは04年時点で2万7610ドルだったが、今は8万8450ドル。この数字は日本の2.5倍であり、シンガポールと競り合う隣国マレーシアの6倍以上だ。

それでも国内では体制への不満が渦巻き、外交面では地政学的な嵐に見舞われている。数字で見る限り、この20年でこの国が途方もなく豊かになったのは事実。だが香港科技大学のロウが前掲の寄稿で指摘したとおり、「成長の代償として人口が激増し国民は不満を募らせ」ている。交通渋滞はひどいし、雇用や公共財をめぐる競争は激化し、住居費は高騰。移民の増加でシンガポール人のアイデンティティーも失われつつあるという。

シンガポール人の所得水準は確かに高いが、住居費や生活費の高さも突出している。住宅開発庁の公式統計でも、不動産の賃借料は過去20年で2倍以上になり、「世界で最も物価の高い都市ランキング」では常に上位に登場する。

一方で少子高齢化も進む。65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は13年の11.7%から19.1%に増加しており、30年には25%に近づく見通しだ。出生率も昨年は0.97で、史上最低を記録した。

それでも新規の移民が多いから人口は増え続ける。00年段階の総人口は400万だったが、今は600万に迫る。こうなると公共サービスが追い付かないし、国民の意識もばらばらになる。中国からの移民が急増しているのも、政府にとっては懸念材料だ。

加えて、ウォン新首相は選挙にも勝たねばならない。与党PAPは65年の独立以来一貫して政権を維持しており、前回20年の総選挙でも93議席中83議席を獲得したが、得票率は15年の総選挙時から9ポイントも下がっていた。強権的で息苦しく、自由にモノを言えない現状に、若い世代が背を向けたせいだろう。

残る10議席を獲得したのは最大野党の労働者党で、当時の世論調査によれば、同党の支持者は21~25歳の年齢層で最も多かった。PAPと袂(たもと)を分かった新党「進歩シンガポール党」も、議席は逃したものの得票率は10%だった。

こうした結果を受けて、PAPは「心からの見直し」を口にしたが、実際には今まで以上に政府批判を封じる仕組みを導入した。オンライン上の「虚偽情報および世論操作」や「外国からの干渉」を防ぐ法律の制定などだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中