最新記事
北朝鮮

金正恩の「贅沢と核開発」を支える「奴隷労働者」...「雇用仲介者」は中国

China Holds the Key

2023年8月9日(水)15時03分
イ・ミンヨン(韓国・淑明女子大学客員教授)
北朝鮮レストラン

朝鮮戦争以来の友好関係といわれるが(中国・浙江省寧波の北朝鮮レストラン) JOSEPH CAMPBELLーREUTERS

<中国が雇用主となってロシアやウズベキスタン、アフリカ諸国に派遣され、劣悪な環境で搾取される北朝鮮人労働者8万人...。その「外貨」の8割が「忠誠基金」、つまり金総書記の懐に...>

ミサイル開発が達成に近づくなか、北朝鮮は7回目の核実験に向けて準備を進めているようだ。

4月に行った固体燃料式の新型ICBM「火星18」発射実験の成功は、ICBM技術開発が最終段階間近だと示唆している。残るステップは、核弾頭の小型・軽量化を目指した核実験だけだ。

 
 
 
 

国際社会は事態を傍観し、黙認するのか。北朝鮮は既に事実上の核保有国で、今やICBM技術の完成に手が届きかけている。絶望的な状況に映るかもしれないが、何もしないという選択肢はない。

解決策を探る上でまず必要なのは、北朝鮮が国民の犠牲を「内なる原動力」にしていると理解することだ。北朝鮮市民は核開発を支えるため、命をささげている。最たる例が、外貨収入源として国外へ就労に派遣される労働者だ。

彼らは想像を絶する人権侵害にさらされている。

先頃、派遣先のロシアやウズベキスタンから韓国へ逃れた北朝鮮人労働者の話によれば、休日なしで1日12時間以上の肉体労働に従事し、極めて劣悪な住環境で共同生活を強いられる。外出も家族への連絡も禁じられ、厳重な監視の下で奴隷のような生活を送り、耐え切れずに自殺した人もいる。

賃金の最大8割は「忠誠基金」への寄付という名目で強制徴収され、核・ミサイル開発や金正恩(キム・ジョンウン)総書記の贅沢品購入の資金として使われている。

現在、北朝鮮人労働者の最大の「雇用主」は中国だ。北朝鮮との国境沿いにある遼寧省丹東市では推定約8万人が暮らす。

その一部は中国国籍と偽り、セネガルやアルジェリアへ送られている(2017年採択の国連安保理決議第2397号は対北朝鮮制裁の一環として、19年12月22日までに北朝鮮人労働者を送還するよう加盟各国に求めた)。

北朝鮮からの派遣労働者を取り巻く環境を注視すると、重なり合う2つの現象が見えてくる。労働者を外貨獲得マシンにおとしめる現代の奴隷制と、北朝鮮の核兵器開発に目をつぶる中国の態度だ。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ、ウクライナ支援継続を強調 両首脳が電話会談

ワールド

トランプ米大統領、ハーバード大への補助金打ち切り示

ビジネス

シタデルがSECに規制要望書、24時間取引のリスク

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中