最新記事
一帯一路

「さらば一帯一路」イタリアが中国に冷や水...メローニ首相の強硬姿勢

2023年8月9日(水)14時40分
クリスティーナ・ルー
イタリアのジョルジャ・メローニ首相

台湾への支持を表明するなど、中国と距離を置き始めたメローニ JOHANNA GERONーREUTERS

<専門家は「中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」と指摘している>

ヨーロッパへの影響力拡大を目指してきた中国にとっては大打撃だ。イタリア政府が中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱に向けて動き出したのだ。イタリアは2019年、G7(主要7カ国)で初めて一帯一路に参加していた。

13年に習近平(シー・チンピン)国家主席が一帯一路構想を提唱して10年という節目の年に、中国はメンツをつぶされた格好だ。「中国にとっては非常に屈辱的なこと」だと、米スティムソン・センターの中国プログラム部長、孫韻(スン・ユン)は言う。中国はヨーロッパの国、とりわけ西ヨーロッパの国が参加していることを誇りにしていたのだ。

これまでヨーロッパは、アメリカほど強い姿勢で中国に臨んでこなかった。特に経済面のデカップリング(切り離し)を強硬に推し進めてきたとは言い難い。しかし、風向きが変わり始めたようだ。

一帯一路は、中国のインフラ輸出を後押しし、さらには中国が地政学上の影響力を拡大させる手だてになってきた。

現在までに東欧諸国を中心にEU加盟国の3分の2が一帯一路に参加して、中国からの投資を呼び込み、自国経済のテコ入れを図ろうとしてきた。これらの国々の多くは、イタリアと同様、経済の不振にあえいでいて、中国からの投資が自国経済に大きな恩恵をもたらすと主張していた。

ところが、イタリア経済は一帯一路によって期待どおりの恩恵に浴せていない。中国側は総額28億ドルのインフラ投資を約束したが、イタリアに好景気は訪れなかった。

「19年当時は非合理な期待が高まっていた」と振り返るのは、米コンサルティング会社ローディアム・グループのノア・バーキン上級アドバイザーだ。「この取引は大きな恩恵をもたらさなかった」。バーキンによると、イタリアの対中輸出はほとんど増えず、中国からイタリアへの直接投資は大幅に減っている。

イタリア政府は、中国に厳しい姿勢で臨むようになっている。ドラギ前首相は昨年、中国への技術移転にストップをかけ、中国企業によるイタリア企業の買収もたびたび阻止した。

メローニ現首相は、もっと強硬だ。イタリアのタイヤメーカー、ピレリに対する中国企業シノケムの影響力を制限する措置を講じたり、台湾への支持を明確に表明したりしている。

テクノロジーをめぐる中国と西側の対立が激化するなかで、ほかのヨーロッパ諸国も中国との経済関係を見直すようになっている。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中