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デモ参加者を「害虫」扱い...なぜフランスの警官は、ほかの欧州諸国に比べて乱暴で高圧的なのか?

Why France Is Burning

2023年7月11日(火)16時30分
ミシェル・バルベロ(ジャーナリスト)

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パリ中心部のシャンゼリゼで警官に取り押さえられる若者(7月2日) JUAN MEDINAーREUTERS

デモ参加者を「害虫」扱い

60年たっても事情は変わらず、バンリューでは貧困と犯罪が同居しており、警察はそこを犯罪の巣窟と決め付けている。ロシェによれば、とりわけ05年の暴動後に住民と警察の緊張が高まった。

当時の「警察は不意を突かれ、事態を掌握できなかった」とロシェは言う。それで歴代の政権は、バンリューの治安維持に対するアプローチを変え、今まで以上に強硬な対応を取るようになった。

犯罪を未然に防ぐという名目で「疑わしい」人を予防的に拘束する部隊が結成された。そして、そこには大抵、最高に乱暴な警官が配置された。暴動の鎮圧にゴム弾銃を用いるのも当たり前になった。

「それで警察のロジックが変わった」と、ロシェは言う。「警官は地域住民とつながり、その信頼を勝ち得て、安心を提供するためにいるのではなく、ただ彼らを逮捕するためにいるのだと。だから今の警官はゴム弾銃を構えてバンリューに乗り込み、力を誇示し、住民に恐怖心を植え付ける」

実際、今回の暴動後にも警官の組合が声明を出し、暴動に参加した人たちを「野蛮人の群れ」とか「害虫」と呼び、警察は彼らと「戦争状態にある」と宣言している。

平気でそんな言葉を使うくらいだから、フランスの警官はほかの欧州諸国の警官に比べて、ためらいなく銃の引き金を引いてしまう。

20年以降、フランスでは平均すると年に44人が警官に殺されている。年に何百人も犠牲になっているアメリカとは比較にならないが、ドイツやイギリスよりもずっと多い。

その原因の一端は、17年に大統領となったマクロンが警官の数を急激に増やしたことにありそうだ。結果として採用基準が甘くなり、訓練の期間も短縮された。従来は警官志願者のうち、採用されるのは50人に1人程度だったが、近年は5人に1人。加えて、新人の訓練期間はドイツでは3年だが、今のフランスではわずか8カ月だ。

言うまでもないが、こんなやり方で警察への信頼が高まるわけがない。今のフランスでは、警察が「正直」だと考える若者は50%で、警察の武力行使の程度が適切だと考える人は46%にすぎない。ちなみにドイツでは、それぞれ69%、63%だ。

問題は警官の質だけでなく、警察を律する法律の問題でもある。ナンテールでの事件を受けて、多くの人が17年にできた法律に改めて目を向けた。自分や同僚の命に差し迫った危険がない場合でも警官は銃器を使用できるとした法律だ。この法律が施行された後、交通検問から逃れようとしてハンドルを握ったまま射殺された人の数は5倍に増え、昨年だけで過去最高の13人に上っている。

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