最新記事

中国

中国が「TPP」に加わりたい本当の理由...2つの大きな政治的メリット

CHINA AS TROJAN-HORSE CANDIDATE

2023年5月9日(火)12時50分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
CPTPP11カ国の代表

2018年3月にチリで行われた署名式に集まったCPTPP11カ国の代表 RODRIGO GARRIDOーREUTERS

<中国にさほど経済的メリットはないが、大きな政治的メリットがある>

この3月、アジア太平洋地域の貿易協定CPTPPに参加している11カ国は、2018年の創設メンバー以外で初めてイギリスの加盟を認めることを決めた(アメリカはトランプ前政権時代に、CPTPPの前身であるTPPを離脱)。

そうなると、今後は中国、そして台湾の加盟申請への対応が焦点になる。その点、台湾は既にCPTPPのルールに合わせて法制度を変更している。しかし、この協定の中心メンバーである日本、カナダ、オーストラリアは、中国が加盟資格を満たしているかには懐疑的だ。中国は、国内産業への補助金、労働組合、知的財産権などの面でCPTPPのルールを遵守できているとは言い難い。11カ国は、中国に甘い顔をせず、既存の加盟基準を貫くべきだろう。

しかし、そもそも中国はなぜ、CPTPPに加わりたがるのか。中国はCPTPPとは別に、自国の主導により、東アジア地域の経済連携協定RCEPを発足させている。それに、CPTPP加盟国の一部とは個別の貿易協定を結んでいるし、カナダやイギリスとは政治的摩擦はあるものの、貿易は活発だ。

その意味では、CPTPPに加盟しても中国にさほど経済的メリットはない。しかし、大きな政治的メリットが2つある。

1つは、自国が先に加盟すれば、台湾をCPTPPから締め出せること(CPTPPへの新規加盟には、既存メンバー全ての同意が必要)。そうなれば、台湾は地域レベルの貿易協定に1つも加われなくなる。

もう1つは、CPTPPのルールを変更してロシアを迎え入れる道を開けることだ。あるいは、RCEPとはライバル関係にあるCPTPPの内側で不協和音を生み出し、妨害活動を行うことも可能になる。

CPTPP加盟国にとって安全な戦略は、まず台湾を受け入れて、中国の加盟申請は拒否するというものだ。なにしろ、中国は10年に、日本へのレアアース輸出を全面的に停止し、一方的な貿易戦争を仕掛けた。ここ数年は、カナダとオーストラリアを標的に大々的な貿易戦争を行っている。

中国共産党政権は、こうした貿易戦争のやり方をどこで学んだのか。お手本は、中国の長い歴史にあるのかもしれない。春秋戦国時代に記されたとされる思想書『管子』に、こんな話が紹介されている。

斉という豊かな国の王は、隣国の衡山を併合したいと思っていた。衡山は小さい国だが、質の高い武器の生産で市場を独占していた。王の命を受けた斉の宰相、管仲は、まず衡山から大量の武器を購入した。すると、斉と敵対する近隣の国々は不安を感じ、同じように衡山から大量に武器を購入し始めた。衡山の王は大喜びし、国民に農業をやめさせて武器を生産させて輸出し続けた。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中