最新記事

台湾

台湾新旧リーダーの「外遊合戦」が意味するもの

2023年4月3日(月)11時50分
トム・オコナー(本誌外交問題担当)
ニューヨークを訪れた蔡

ニューヨークを訪れた蔡(3月30日) TAIWAN PRESIDENTIAL OFFICEーHANDOUTーREUTERS

<蔡英文が訪米、馬英九は訪中──2人がどのような成果を上げるかは、台湾の未来と米中関係の今後に大きな影響を及ぼす可能性がある>

台湾をめぐる緊張が高まっているなかで、台湾の政界でライバル関係にある2人の要人が同時期に、激しく対立する2つの超大国に向けてそれぞれ出発した。与党・民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統がアメリカに、最大野党・国民党の馬英九(マー・インチウ)前総統が中国に向かったのだ。

蔡の訪米は、中米諸国歴訪の途中での立ち寄りという形を取り、馬の訪中は、墓参りや中台学生交流のためという形を取っている。いずれも「非公式」の訪問だが、2人がどのような成果を上げるかは、台湾の未来と米中関係の今後に大きな影響を及ぼす可能性がある。

蔡がアメリカを訪れるのは、2016年の総統就任以来7回目だが、昨年夏のペロシ米下院議長(当時)の訪台に中国が激しく反発して地域の緊張が高まって以降では今回が初となる。

馬は既に台湾の総統でも国民党の党首でもないが、1949年の中台分断以降、台湾の現職総統もしくは総統経験者が中国本土を訪れるのは、今回が初めてだ。

来年1月の台湾総統選挙と立法委員(国会議員)選挙を前に、蔡と馬は、大きな政治的思惑を持って訪米と訪中に踏み切ったとみられている。

「いずれの場合も、自分たちの党派がアメリカ政府もしくは中国政府から好意的な反応を引き出す力を持っていると、有権者に印象付けたいという意図が見て取れる」と、民間シンクタンク「台湾民意基金会」(台北)のポール・ホワン研究員は本誌に語る。

しかし、蔡も馬も、そうした望みどおりのメッセージを有権者に向けて発信することは難しそうだ。

「蔡がアメリカで行う会談はごくわずか。しかも、その相手は、米政府の地位の低い人物と野党・共和党の党派色の強い政治家だけだ。それでも、(蔡と民進党は)大きな外交上の成果だと強調し、いざというときにアメリカが台湾の防衛にはせ参じるという『証拠』だとアピールするだろう」と、ホワンは言う。

しかし、台湾の有権者が民進党の期待するような受け止め方をするかは疑わしい。「ロシアがウクライナに侵攻し、それに対してアメリカが軍事的に関わろうとしなかったのを目の当たりにして、台湾の人々は、(台湾有事が起きた場合に)アメリカが軍事介入するという確信を持てなくなった」と、ホワンは指摘する。

しかも、中国の人民解放軍の実力は「質と量の両面で台湾の軍を大きく凌駕している」と、ホワンは言う。「台湾の軍と安全保障機関は、全く能力が不十分で、マネジメントとリーダーシップも救いようがないほどひどい」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、兵器級に近い濃縮ウラン増加 協議停滞=IA

ワールド

中国・万科が土地売却完了、取得時より3割弱低い価格

ワールド

中国・上海市、住宅の頭金比率引き下げ 購入規制を緩

ビジネス

インタビュー:赤字の中国事業「着実に利益を上げる形
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 6

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 7

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 8

    台湾を威嚇する中国になぜかべったり、国民党は共産…

  • 9

    トランプ&米共和党、「捕まえて殺す」流儀への謎の執…

  • 10

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中