【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230124p42_NDT_03.jpg

ペーボらの発見によって、ネアンデルタール人のイメージは大きく変わってきた JENS SCHLUETER/GETTY IMAGES

しかし今から4万年ほど前、ネアンデルタール人は突如として姿を消した。その後、再び表舞台に登場したのは、19世紀半ばのことだった。

1856年、ドイツ西部デュッセルドルフ郊外のネアンデル渓谷で石灰岩を採掘していた作業員たちが、頭蓋骨などの骨の化石を掘り出したのだ。頭蓋骨は眉から下が欠けていて、左右がつながった太い眉の骨が前方に大きく突き出していた。

長い間、ネアンデルタール人は現生人類よりも進化レベルが低く、知能も劣る下等な親戚だと推測されてきた。ところがここ数十年で、その生活や人類の歴史における位置付けについて、これまで分かっていた(と思われていた)ことを見直す動きが専門家の間で広がり始めた。

「この10年でネアンデルタール人は、われわれが考えていたよりも現生人類に近かったことを認める動きが出てきた」と、ペーボは言う。

最近の生体力学的な分析により、ネアンデルタール人も直立二足歩行をしていたことが疑いの余地なく立証されたと、英リバプール大学の考古学者レベッカ・ウラッグサイクスは語る。彼女の著書『ネアンデルタール』(邦訳・筑摩書房)は、ネアンデルタール人について現在分かっていることに関する、最も信頼できる解説と評価されている。

後ろから見たら「普通の人」

ネアンデルタール人の身長は145~167センチで、現生人類よりもやや低い程度だったが、体重は63~82キロと、はるかにずんぐりした体格だった。体表面積が小さかったことは、アフリカ以外の寒冷地で体温を保つのに適していたはずだ。

頭蓋骨は私たちよりも大きく、額は前方に斜めに突き出ていた。大きな鼻は、凍えるように冷たく乾燥した外気を温めて、湿らせてから肺に送り込むのに役立った。眼窩(がんか)が大きいのは、暗い場所でも視力を確保するためだったと考えられている。

「ネアンデルタール人を後ろから見たら、普通の人だと思うだろう」と、ウラッグサイクスは語る。「ところが向こうが振り向いたら、『うわっ、こんな人見たことない』と思うだろう。それでも何らかの交流は持てるはずだ。つまり、ネアンデルタール人は太古の昔に存在した原始人だという認識は、進化のプロセスにおける真の位置付けと一致しない。ましてや考古学的な証拠とは全く矛盾している」

近年は、ネアンデルタール人の骨の変形や歯のすり減り具合を分析して、コンピューターシミュレーションを行うことによって、従来なら考えられなかった推測も可能になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中