最新記事

NFT

アートとNFTめぐるダミアン・ハーストの実験 4800人が作品燃やし、NFTでの保有を選ぶ

2022年8月8日(月)16時32分
青葉やまと

現物が消滅したアートの所有権に、価値はあるのか

プロジェクトのウェブサイトによると、結果はほぼ拮抗したようだ。全1万点の作品のうち、物理的なアート作品との引き換えが申請された作品数は、5149点となっている。残りの4851点のオーナーたちはNFTを引き続き保有することを選んだ。


NFTで所有される作品については、プロジェクトの趣旨に則り、9月9日からハースト氏がロンドンの画廊で現物を順次焼却してゆく。実体を失ったNFTだけを保有し続けるというのは、いかにも不合理な選択のように思えるが、秘密はNFTの価値にあるようだ。

暗号資産関連のニュースを報じるクリプト・ニュースは、作品のNFTが発売された際、1点あたり2000ドル(現在のレートで約27万円)の価格設定だったと報じている。その後の個人間取引で価格は上昇し、現在では4倍の約8000ドル(約107万円)で譲渡されることもめずらしくなくなった。

NFTでの保持を選択したオーナーたちは、今後もこの価格が維持され上昇することを見込んで選択したとみられる。仮にそうなれば、もはやこの世に存在しない作品の所有権だけが高値で取引されるという、なんとも不可解な状況へと突入する。

ハースト氏はプロジェクトを、アートの通貨としての価値を問うものだと説明している。まさにそのねらい通り、興味深い結果を生んだようだ。

斬新な試みを続けてきた、イギリスで最もリッチなアーティスト

仕掛け人で現在57歳のハースト氏は、挑戦的な作品を多く発表し注目を集めてきた。1990年代から知名度を急速に高めてきた「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」と呼ばれる芸術家たちのなかでも、代表的な存在だ。今年5月まで、東京・六本木の国立新美術館でも、企画展『ダミアン・ハースト 桜』が開催されていた。

氏の代表的な作品に、「ナチュラル・ヒストリー(博物学)」と呼ばれるシリーズがある。動物の死体をホルマリン漬けにして展示したもので、生と死をテーマのひとつに据えるハースト氏らしいプロジェクトだ。

英ガーディアン紙によると氏は2020年、純資産3億1500万ポンド(約511億円)を保有し、イギリスで最も裕福なアーティストとなっている。

【動画】>>■■【動画】現代美術家ダミアン・ハーストがアートとNFTで揺さぶる「通貨」の概念■■

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、鉄鋼生産抑制へ対策強化 電炉や水素還元技術を

ビジネス

米総合PMI、10月は54.8に上昇 サービス部門

ビジネス

米CPI、9月前月比+0.3%・前年比+3.0% 

ワールド

加との貿易交渉「困難」、トランプ氏の不満高まる=N
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中