最新記事

イスラエル

国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?

ISRAEL'S CHOICE WEAPON

2022年7月8日(金)15時03分
ダニエル・プレトカ(アメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェロー)
ファクリザデ

イスラエルに暗殺されたイランの核科学者ファクリザデの埋葬式(2020年11月30日) HAMED MALEKPOURーWANAーREUTERS

<1948年の建国以来、自国の存続に「欠かせない武器」として計画的殺人を行ってきたイスラエル。報復ではなく、「殺人を未然に防ぐための殺人」はモラルだけの問題ではない>

ナチス・ドイツでミサイル開発に携わっていたロケット科学者ハインツ・クルークが、ミュンヘンの仕事場からこつぜんと姿を消したのは1962年9月11日のこと。かつての同僚たち同様、クルークもガマル・アブデル・ナセル大統領率いるエジプト政府に協力していた。

そのエジプトは、既に2度もイスラエルと戦争をしていた。話せば長くなる(実はイタリアのムソリーニやアルゼンチンのエバ・ペロン、ナチスの隠匿財産なども絡む)が、要はイスラエルの諜報機関モサドが、かつてヒトラーの親衛隊にいた男を雇ってクルークを殺させたのだ。

それはイスラエルが手掛けた数ある暗殺計画の中でも最高に映画性に富む事件だったが、むろんこれが最後ではなかった。

今年も5月下旬から6月にかけて、イラン革命防衛隊の関係者7人(現役の大佐2人を含む)が別々に殺害されている。そして当然のことながら、イラン側はモサドの犯行だと非難している。

イスラエルは1948年の建国以来、一貫して暗殺を自国の存続に欠かせない武器と見なしてきた。同年秋には、早くも国連のパレスチナ調停官フォルケ・ベルナドッテをユダヤ人武闘派の「レヒ」が殺害している(彼の調停案をユダヤ人に不利と見なしたからだ)。

ちなみに、当時レヒを率いていたイツハク・シャミルは後にイスラエル首相となる。

シャミルは有名なダモクレス作戦にも関与したとされる。元ナチス親衛隊のオットー・スコルツェニーを使ってクルークを殺害する一方、ヒトラーのユダヤ人虐殺計画を引き継ごうとするナチスの残党らを標的にした作戦だ。

信憑性は高くないが、シャミルはドイツで拉致したドイツ人科学者を「エジプトに連れて行く」と偽ってジェット機に乗せ、高度数千メートルで機体のドアを開け、「ここがおまえたちの終着地だ」と通告したとも伝えられる。

イスラエルが隠密作戦を得意とするのは周知のところ。時には間違って別人を殺してしまうこともあるが、それはさておき、問題はこうした超法規的な方法が本当にイスラエル外交に有益なのかどうかだ。

今日までにイスラエルが標的にしてきたのは、たいていイランの核兵器・ミサイル開発計画に関与している人物だ(例外もあり、2年前には1998年にアフリカで起きた米大使館爆破事件の首謀者とされるアルカイダ幹部を殺害している。これには米政府の要請があったとされる)。

なかでも劇的だったのは、著名な核科学者モフセン・ファクリザデを殺害した2020年の事件だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー、新車販売の96%がEVに 他国を大きく

ワールド

マムダニ氏がNY市長就任、物価高対策の実現誓う

ワールド

情報BOX:トランプ米政権がベネズエラ大統領を拘束

ビジネス

米リビアン、25年納車は18%減で市場予想下回る 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中