最新記事

韓国社会

韓国、高騰する子育て費用に出産先送り 卵子凍結サービスが人気に

2022年5月23日(月)11時04分
卵子を凍結した韓国の公務員リム・ユンヨンさん

韓国では子どもを産む女性が減り、たとえ産む意思がある場合でも、出産を後回しにする傾向が強まっている。住居費と子どもの教育費が高騰しており、財政的な余裕を確保することが先決だからだ。写真は、卵子を凍結した公務員のリム・ユンヨンさん(34)。同国のCHAメディカル・センターで4月30日撮影(2022年 ロイター/Heo Ran)

韓国では子どもを産む女性が減り、たとえ産む意思がある場合でも、出産を後回しにする傾向が強まっている。住居費と子どもの教育費が高騰しており、財政的な余裕を確保することが先決だからだ。子どもを産むには結婚する必要がある、という社会的道徳観も立ちはだかっている。

公務員のリム・ユンヨンさん(34)は、家族を持つ準備ができていないと話す。金銭的コストに加え、彼氏と付き合い始めて数カ月しかたっていないことが理由だ。ただ、出産可能年齢の限界に近づくことを懸念し、昨年11月に卵子を凍結した。

韓国最大の不妊治療クリニック、CHAメディカル・センターでは昨年、リムさんを含めて約1200人の未婚女性が卵子を凍結した。過去2年間で、この数は2倍に増加している。

「すごく安心するし、健康な卵子がここに凍結してあると分かっていることで心の平安を得られる」とリムさんは言う。

出生率がOECD加盟国平均の半分に

卵子を凍結して出産のための時間を稼ぐ選択をする女性は、世界中で増えている。しかし韓国は、合計特殊出生率が世界最低に近いという、あまり自慢できない記録を持つ国だ。その韓国においてCHAのサービスの利用が劇的に増えていることは、出産先送りなどの選択につながる経済的負担と社会的な制約を浮き彫りにしている。

合計特殊出生率は、女性が出産可能年齢の間に産む子どもの数の平均値。韓国は昨年0.81人と、経済協力開発機構(OECD)諸国の2020年の平均1.59人を大幅に下回った。

しかもこれは、韓国当局が子どものいる家庭に巨額の補助や手当てを与えているにもかかわらずだ。政府は昨年、出生率を上げるための政策に46兆7000億ウォン(370億ドル)の予算をつぎ込んだ。

韓国国民が子どもを持ちたがらないのは、競争過剰でコストの高い教育制度に大きな原因がある。大半の児童は、小さいころから学習塾に通ったり家庭教師を付けたりするのが当たり前になっている。

「結婚した夫婦の話やテレビのリアリティ番組で、子どもを育てるには教育費などでどれだけお金がかかるかを聞かされている。そういった心配が結婚や出産の減少につながっている」とリムさんは語った。

住居費も急騰している。例えば首都ソウルの平均的なアパートの価格は、韓国の世帯年収の中央値の19倍と、2017年の11倍から急上昇した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

消費者動向が今後のインフレと雇用の鍵=米リッチモン

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ大統領と協議 米ロ会談前に各

ワールド

FRBの独立性は「最重要」、関税は顕著なインフレ引

ワールド

ガザ人道危機「想像を絶する」、日本含む24カ国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トランプが「顧客リスト」を公開できない理由、元米大統領も関与か
  • 2
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 3
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 8
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 9
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中