最新記事

ウクライナ戦争

中国からあの米同盟国まで ロシアを支持・支援する国は世界人口の半分以上

THE WEST VS. THE REST

2022年5月10日(火)16時55分
アンジェラ・ステント(ブルッキングス研究所シニアフェロー)

ロシア批判を控えているもう1つの大国が、世界最大の民主主義国でクアッド(日米豪印戦略対話)のメンバーでもあるインドだ。

インド・ロシア・中国の関係

220517p22_RSA_04.jpg

中国を牽制したいインドのモディ首相 LISI NIESNER-REUTERS

インドはこれまで、ロシアを非難する3つの国連決議案の全てに棄権してきた。

またブチャで多数の民間人が殺害されたことについて、ナレンドラ・モディ首相は「非常に憂慮」していると述べ、同国の国連大使も「殺害を全面的に非難し、独立機関による調査を求める」と発言しているが、この件に関してロシアに責任があるとは言っていない。

なにしろインドは、今もロシアから武器や石油を買い続けている。インドの軍備の3分の2はロシア製で、ロシアの軍事産業にとってインドは最大の顧客だ。

モディがロシアを非難できないのは、中国と対抗する上でロシアの仲介ないし協力が不可欠だからでもある。実際、2020年に中印国境地帯で衝突が起きた際は、ロシアが緊張緩和に動いている。

それに、インドは20世紀の東西冷戦時代に「非同盟諸国」のリーダーとして、アメリカに対して懐疑的な立場を取ってきた。だから今も、国民の間にはロシア(旧ソ連)に対する一定の親近感がある。

しかし今のインド政府はクアッドのメンバーとして、アメリカと新たな戦略的パートナーシップを結んでいる。

ロシアとの伝統的な関係とアメリカとの新たな関係のどちらを取るか。その舵取りは難しい。

一方、過去10年におけるプーチン外交の大きな成功の1つはロシアの中東回帰だ。

プーチン政権はソ連崩壊後に撤退した中東地域の複数の国と外交関係を復活させ、ソ連時代に交流がなかった複数の国とも新たに緊密な関係を築いてきた。

220517p22_RSA_03.jpg

プーチンと親しいサウジアラビアのムハンマド皇太子 BAHRAIN NEWS AGENCY-REUTERS

結果、今のロシアは中東地域の全ての国と話せる立場にあり、あらゆる紛争当事者と対話ルートを維持している唯一の主要国だ。

そうした事実が、ウクライナ侵攻に対する中東諸国の反応に影響を与えている。

例えば国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止決議では、多くのアラブ諸国が棄権した。

サウジアラビアやアラブ首長国連邦、エジプト、イスラエルはアメリカの同盟国だが、ロシアへの制裁には加わっていない。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はウクライナ侵攻後も2度にわたり、プーチンと電話会談を行っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、就任2年で会見 経済重視 

ビジネス

中国・碧桂園、元建て債利払いできず 国有の保証会社

ビジネス

アングル:状況異なる2度の介入観測、市場に違和感 

ビジネス

ブラザー、ローランドDGのTOB価格引き上げず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中