最新記事

ロシア

ロシア国民を監視する巨大盗聴システム 北欧通信大手が協力

2022年4月8日(金)17時11分
青葉やまと

ただし、声明を注意深く読むと、中央監視システムである「SORM機器」自体の製造とサービスは行なっていないと断言しているものの、同システムに「接続」するための機器の導入と業務支援を実施したことについては否定していない。

声明は同社の機器について、ほかの事業者が提供する機器と同様、現地の規制に準拠するためにデータを当局に仲介する「受動的な能力」を有すると説明している。「受動的な能力」の具体的内容は不明だが、SORMの中心部には関与していないものの、通信事業者からSORMにデータを流す機構は提供したとも読める。

カナダのモントリオール・ガゼット紙はNokia側の反論について触れながら、同社が「あるいは無意識のうちに」傍受を補助した可能性があると論じた。

1865年にパルプ会社として創業したNokiaは、1970年代から技術部門を拡大。90年代には携帯市場を席巻したがスマホへの転換で出遅れ、凋落を経験した。2013年に携帯事業から撤退し、現在は通信機器メーカーとして世界3位の規模を誇る。

ロシアの標準は「民主社会の基準を超越」

SORMのような監視システムはロシア以外でも世界の多くの国に存在し、捜査当局による犯罪捜査などに活用されている。ただし、ロシアでは裁判所の命令なくしてユーザーの通信履歴を政府が取得できる点で、多くの民主主義国家とは運用基準が異なる。

国際人権NGO「フリーダム・ハウス」でリサーチ担当重役を務めるエイドリアン・シャフバズ氏は2019年、米技術誌の『テック・クランチ』に対し、「しかし、ロシアの各機関がどのようにこの類の装置を使っているかを鑑みれば、それが民主社会での基準をはるかに超越していることは明らかです」と述べている。同誌は、「長きにわたりロシアは、人権侵害の疑惑にさらされてきた」とも指摘している。

SORMは市民の通話の盗聴や反体制派の監視にも利用され、以前から問題視されてきた。2013年には、反プーチン派の中心人物であり野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏に対する裁判において、SORMが傍受したとみられる通話記録が氏を追い詰めるための証拠として使用された。

ロシアMTS社が現地で事業を行うためは、SORMへの接続機能が必須であり、Nokiaはその導入・運用を支援した形となる。しかし、現地の法令に則している限り政権による無制限の傍受を支援しても問題ないとするスタンスは、人道的見地から波紋を呼びそうだ。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ

ワールド

IEA、石油供給不足なら備蓄放出の用意 OPEC「

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中