最新記事

経済制裁

西側の制裁逃れるロシアの富裕層 今もトルコやUAEで不動産買いあさる

2022年3月31日(木)17時34分
イスタンブールの高級アパートの営業オフィス

ウクライナに侵攻したロシアに対して西側諸国が経済制裁を科したことで、資産の安全な逃避先を求めるロシアの富裕層が、今でもロシアとの関係が比較的良好なトルコとアラブ首長国連邦(UAE)で不動産を買いあさっている。写真は2019年3月、イスタンブールの高級アパートの営業オフィスで撮影(2022年 ロイター/Murad Sezer)

ウクライナに侵攻したロシアに対して西側諸国が経済制裁を科したことで、資産の安全な逃避先を求めるロシアの富裕層が、今でもロシアとの関係が比較的良好なトルコとアラブ首長国連邦(UAE)で不動産を買いあさっている。

トルコの主要都市・イスタンブールの不動産会社、ゴールデン・サインの共同創業者、グル・グル氏は「毎日7戸から8戸をロシア人に販売している。支払いは現金だったり、トルコに銀行口座を開設したり、あるいは金を持ってきたりする」と語る。

UAEのドバイの不動産会社、モダン・リビングのシアゴ・カルダス最高経営責任者(CEO)は、10倍に跳ね上がったというロシア人顧客からの問い合わせに応じるため、ロシア語を話す営業担当者を3人採用した。

ロシアは2月24日のウクライナ侵攻以降、西側諸国から経済制裁を受け、国際的な金融システムの国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から除外されたほか、プーチン大統領に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)など個人も制裁の対象となっている。

トルコとUAEもロシアの武力攻撃を批判はしているが、トルコが国連の枠を超えたロシア制裁に反対するなど、両国はロシアとの関係が比較的良好だ。現在もモスクワ直行便の運行を続け、ロシアから人や現金が国外に脱出するルートになっている可能性がある。

グル氏の話では、こうしたロシア人は裕福だがオリガルヒではない。トルコにお金を運ぶ手段を見つけ出しており「3棟から5棟のアパートを購入する顧客もいる」という。

ロシア人はトルコの不動産業者にとって、イラン人やイラク人に次ぐ優良顧客。何年も前からトルコで不動産を大量に購入している。ただ、不動産関係者によると、この数週間で需要は急増したという。

トルコ統計局の発表によると、ロシア軍がウクライナ国境に集結し、侵攻を開始した2月、既にロシア人はトルコで前年のほぼ2倍となる509戸の住宅を購入していた。

この統計は西側の対ロシア制裁が発動される前のデータだけに、不動産業者はロシア人向けの販売はさらに増えると見込んでいる。不動産市場はそもそも、新型コロナウイルスの世界的流行からの回復で需要が高まっていた。

イスタンブールで主に外国人向けに不動産を建設・販売しているイブラヒム・ババカン氏に取材したところ、以前は多くのロシア人が地中海のアンタルヤ地方などリゾート地に住みたがっていた。だが、今では投資のためにイスタンブールで集合住宅を買っている。

ロイターは住宅を購入した複数のロシア人に接触したが、いずれもインタビューを拒否した。

居住面の優遇措置も狙い

トルコとUAEは、不動産購入者に対して居住面での優遇措置を講じている。トルコでは、25万ドル以上の不動産を購入し、その物件を3年間保有した外国人は、トルコのパスポートを取得できる。中東のビジネス拠点であるドバイでは、もう少し低い金額で3年間の居住ビザ取得が可能だ。

不動産業界の関係者は、集合住宅の需要の大半を、ビザ取得基準の75万ディルハム(20万5000ドル)の物件が占めると説明。ドバイの華やかな人工島「パーム・ジュメイラ」のより高価な物件は、最高600万ディルハムで販売されていると指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中