最新記事

ウクライナ危機

プーチンは戦争に負けたことがない、この戦争は長くは続かない

WHY PUTIN WILL WIN AGAIN

2022年3月9日(水)15時50分
ビル・パウエル(本誌元モスクワ支局長)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)

ドイツ政府はまた、ドイツとロシアを結ぶ最新の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」事業の停止に難色を示していた。このときドイツの駐米大使が本国に公電を送り、同盟国としての評判が落ちると訴えたのは有名な話だ。

きっとプーチンは、ロシアのガス政策が効いたと、ほくそ笑んだに違いない。だが、その後、事態は急転した。

2月7日にワシントンを訪問したオーラフ・ショルツ独首相は、首脳会談後の共同記者会見でバイデンが「ロシアがウクライナに対して軍事行動を起こしたら、ノルドストリーム2は消滅する」と断言するのを黙って見守った。

そして2月24日に軍事侵攻が始まる直前、ドイツ政府は総工費110億ドルを投じたこのプロジェクトの承認手続きを停止した。その数日後には対戦車兵器と地対空ミサイルをウクライナに供与すると発表し、紛争地域への武器輸出はしないという長年の政策を捨てた。

ドイツはもう、ロシアに対して「弱腰」ではない。

強化されたNATOの結束

2月末にかけて、EUとアメリカはさらに踏み込んだ手を打った。ロシアの複数の大手銀行を国際金融の決済システムSWIFTから追放することを決めた。資金面でロシアの首を絞める作戦だ。

ロシアの中央銀行にも新たな制裁を科し、6300億ドルに上るロシア政府の外貨準備を実質的に凍結した。

この措置の効果はすぐに表れ、通貨ルーブルは対米ドルで急落した。通貨を買い支えるため、ロシア政府は金利を9.5%から20%に引き上げざるを得なくなった。

ウクライナ侵攻はNATO内部の亀裂を深めるどころか、逆効果だった。元CIA長官のデービッド・ペトレイアスは、「同盟がこれほど強く結束したのは、私がNATO本部に勤務していた冷戦時代以来だ」と述べている。

しかしウクライナはNATOの加盟国ではない。だから集団的自衛権の対象にならない。ロシア軍の侵攻が進むなか、ウクライナのある議員はNATOに飛行禁止区域の設定を要請したが、もちろん断られた。

ウクライナが西側の一員になれる日は遠のいた。

ロシア軍はキエフに迫り、遠くから巡航ミサイルを撃ち込んでいる。軍事力でロシアが負けるわけがない。アメリカを含む西側諸国は全て、ウクライナに兵を送ることはないと明言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格、11月は前年比2.7%上昇 

ワールド

中国、インドをWTO提訴 太陽光備品やIT製品巡り

ワールド

ウクライナ軍、東部シベルスクから撤退 要衝掌握に向

ワールド

グレタさん、ロンドンで一時拘束 親パレスチナ支援デ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中