最新記事

中国

『中国の民主』白書と「民主主義サミット」

2021年12月14日(火)16時20分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

民主主義サミットでのバイデン大統領(12月10日) Leah Millis-REUTERS

北京冬季五輪ボイコットと民主主義サミットに合わせたように、中国は『中国の民主』と『アメリカ民主の状況』という白書を発表した。2008年の北京五輪に向けても中国は民主白書を出している。中国の主張とサミットの対中効果を考察する。

白書『中国の民主』

中国の国務院弁公室は12月4日、『中国的民主(中国の民主)』と題した白書を発表した。白書では、「民主」は全人類共通の価値であり、中国共産党と中国人民が一貫して掲げてきた重要な理念であるとしている。白書は冒頭で以下のように述べている。

──100年来、中国共産党は「人民民主」の旗を高く掲げ、数千年にわたる封建社会の歴史と半植民地・半封建社会と化した近代の国家において、「人民が主人公」である国家を実現すべく人民を導いてきた。こうして中国人民は国家と社会と自分の運命の真の主となり得たのである。(引用ここまで)

白書では「中国の民主」を「人民民主」あるいは「社会主義民主」という言葉で定義づけており、決して「民主主義」とは言わない。「民主主義」という言葉は、毛沢東が建国当初まで主張していた「新民主主義革命」と「新民主主義勝利」という単語以外では使っておらず、2万字以上の白書の中で、この「新民主主義」は2カ所にしか出てこない。したがって白書に出てくる「民主」という単語を「民主主義」と日本語訳した時点で、中国政治の構造を十分には理解していないということになる。

『中国の民主』白書ではまた、以下のようにも言っている。

──ある国が民主的であるか否かは、その国の人々が判断すべきだ。外部の少数の者あるいは独善的な少数の国が判断すべきではなく、国際社会が判断すべきである。民主には各国各様にさまざまな形があり、一つの物差しで測るべきではない。民主は特定の国の専売特許ではないので、他の国の民主の度合いを特定の国の物差しで測ること自体、非民主的である。 (引用ここまで)。

この「独善的な少数の国」は明らかにアメリカを中心とした西側諸国を指しており、このたびの白書がアメリカの対中包囲網を意識したものだと言っていいだろう。

2005年と2007年にも「中国の民主」に関する白書

しかし、「中国の民主」に関する白書が出されたのは今回が初めてかというと、そうではない。

胡錦涛政権時代の2005年10月に『中国の民主政治建設』という白書が国務院から出されており、2007年11月には『中国政党制度』という白書が出されている。この『中国政党制度』は、「社会主義民主」や「多党合作制度(八大民主党派などを中心とした中国の国家政治権力体制)」などを中心に述べたものであり、同じように「中国式民主」を礼賛したものである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中閣僚貿易協議で「枠組み」到達とベセント氏、首脳

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 7
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 8
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中