最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナが「ただの風邪症状を引き起こすウイルス」になると考えられる2つの理由

OUR FUTURE WITH COVID-19

2021年5月7日(金)16時15分
山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所教授)

そうした意味においては、私たちにいま求められているのは、重症化した人の命を失うことなく、また、今回のパンデミックで社会、経済的に困窮した人の生活が破綻するような事態を避けながら、早く集団が免疫を獲得し、ウイルスとの穏やかな共存状態(社会が集団免疫を獲得した状況)へと入っていくことだと考える。そのために、ワクチンは大きな希望となる。

社会的影響のパンデミック

人口約900万人のイスラエルでは、2020年12月からワクチン接種が始まり、ユリ・エーデルシュタイン保健相によれば、2021年3月25日時点で人口の半数以上が2回のワクチン接種を終えた。その結果、一時期1万人を超えていた1日当たりの感染者数は400人未満となり、死亡者数は85%、重症者数は70%を超える減少となった。

こうした効果は年齢にかかわらず確認できたという。この事実は、ワクチンは明らかに中和抗体を誘導し感染予防あるいは重症化予防に効果があることを教えてくれる。

210427P26israel_CON_04.jpg

世界最速でワクチン接種が進むイスラエルでは感染者が激減 AMMAR AWAD-REUTERS

一方で、ワクチンには、100万分の1か1000万分の1かは分からないが、副反応が必ずある。

集団で見れば、その確率は100万分の1か1000万分の1かもしれないが、副反応が起こった当事者にとってみれば、それは1分の1の話となる。そうした小さくても大切な物語に、私たちは寄り添う必要がある。

それでも、ワクチンを接種する理由は何かと言えば、それが社会の利益になり、また、個人の利益にかなうからである。

一方で、2030年の世界へ至るまでの道は、国や地域によって違いが出てくる。最も大きな要因は、やはりワクチン接種となる。ワクチン接種が速やかに進んだ国や地域ほど、収束までの時間は短くなる。

今、私たちは複合的パンデミックの渦中にいる。医学的パンデミックと、その医学的パンデミックが引き起こした影響のパンデミックである。

ロックダウンは、社会のデジタル化を進める原動力となったと同時に、持てるものと持たざるものとの格差をさらに広げつつある。それは、国内的格差だけでなく、国際的格差として、先進国だけにとどまらず、途上国でも同様の傾向が見られる。

さらに言えば、そうした影響は、ウイルスによる医学的パンデミックが収束した後でさえ、長く残り続ける。

その社会的影響のパンデミックが収束した時、私たちは、おそらく今とは明らかに異なる社会を迎えているに違いない。それが、パンデミックは時に社会変革の先駆けとなる意味だと思う。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中