最新記事

シリア

アサド政権が越えてはならない「一線」を越えた日

THE ARROW’S PATH

2021年3月18日(木)18時00分
ジョビー・ウォリック(ジャーナリスト)

もう1つのチームは、土壌のサンプルとロケット弾の残骸を収集する作業に取り掛かった。

調査を開始して2日目、東グータ地区で重要な発見があった。2つの着弾場所――ある建物の屋上と野外の地面――に、ロケット弾の大きな残骸が残っていたのだ。

野外の着弾場所は地面が軟らかく、ロケット弾の一部が地中に埋まっていて、着弾したときの状態をとどめているように見えた。調査団は防護服姿で現場に接近して、金属の破片をいくつか回収して証拠品用の袋に収納し、大きくて運び出せない部品に関しては環境サンプルを採取した。

セルストロムらがこの地区に入るより前の段階で、いくつかの国の政府と数十人の専門家が現場のビデオ映像を基に、この攻撃では神経ガス、具体的にはサリンが使用されたと結論付けていた。調査団が回収したサンプルは、そうした見方を裏付ける決め手になった。のちに2つの別々の研究機関がサンプルを分析したところ、高品質のサリンが使用されたことが分かったのだ。では、ロケット弾はどこから飛んできたのか。

誰かが空高く矢を放ち、その矢が遠くの地面に突き刺さったとする。この場合、突き刺さっている矢の軸の方向を基に、矢が放たれたときに射手がどこにいたかを計算できる。調査団はそれと同じ作業を行った。

調査団が野外で発見したロケット弾は、先端部が地面に突き刺さっていて、尾部が外に突き出していた。調査団がまとめた報告書によれば、ロケット弾は「方位角105度から東南東に向けて」発射されたという。つまり、北西方向から飛来したということだ。そこに位置するのは、政府軍の支配地域である。

ダマスカス郊外で多くの人命を奪った攻撃の背後に誰がいたのか。セルストロムは、その結論を下すよう求められたわけではなかった。とりわけシリア政府側からは、そうした判断を示さないよう求められていた。それでも、誰が黒幕かを一言も名指しすることなく、科学者としてのやり方で明確な告発を発した。

セルストロムが見いだした「矢」は、アサド大統領に仕えるシリア軍部隊を直接指し示していた。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=総じて下落、イランとの協議巡る楽観論

ビジネス

FRB政策「良好な位置」、異例の局面に対応可能=N

ワールド

米、対キューバ政策に変更なし 制裁対象のロ船籍の燃

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒感が下支え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中