最新記事

北朝鮮

金正恩「女子大生クラブ」メンバー50人が強制労働送りに

2020年10月23日(金)13時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

売春組織の処罰対象は、大幅に拡大 KCNA-REUTERS

<すでに主要メンバーら6人が公開銃殺されていたが、その他のメンバーの女子大生も粛清された>

北朝鮮で今年7月、首都・平壌の総合レジャー施設で組織的な売春を行っていたグループが摘発された事件については、本欄ですでに伝えた。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、市内の東大院(トンデウォン)区域にある総合レジャー施設・紋繍院(ムンスウォン)の責任者が、有名映画俳優、平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の教授らが20代前半の美貌の女子大学生に「1カ月に500ドル(約5万3000円)以上儲かる仕事がある」などと声をかけ、施設内のカラオケ店で売春させていたというものだ。客は、中央党(朝鮮労働党中央委員会)や平壌市党(党平壌市委員会)の幹部らだった。

報告を受けた金正恩党委員長は、自分が大事にしている平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学の学生が売春に加担したことに激怒。組織の主要メンバーら6人を公開銃殺させた。

司法機関の幹部がRFAに語ったところによると、平壌での過去の売春組織摘発事例で死刑になったケースはなかったが、今回は同様の行為が全国に広がっていることと、中央の幹部や女子大生が関与するという事件の重大性を鑑みて公開銃殺を行ったもようだという。

そしてRFAの続報によれば、処罰の対象はその後、大幅に拡大した。

俳優や大学教授に対しては、奥地の農村への追放という処分が下された。本来なら処刑されてもおかしくないほどだが、金日成主席や金正日総書記から何度も高い評価を受け、映画界への功労が大きかったことが勘案されたようだ。

さらに平壌市の幹部によると、中央と司法機関の合同グルパ(取り締まり班)が、平壌音楽舞踊大学、平壌演劇映画大学での調査を行い、売春に加担した200人の学生を取り調べた。

そのうち、常習的に売春を行ったり、クラスメートを誘ったりしていた50人に対しては退学と、3カ月から6カ月の労働鍛錬刑の処分が下された。つまり、強制労働を強いられる刑務所の労働鍛錬隊に送られたということだ。事実上の粛清で、彼女らが北朝鮮社会の表舞台で活躍できる可能性はなくなった。

<参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

加担の程度が軽い100人に対しては、教養(再教育)処分が下された。これは、刑法ではなく行政処分について規定した人民保安取締法と行政処罰法に定められた最も軽い処分だ。

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の司法機関の関係者によると、道内の清津市内で売春行為に対する大々的な取り締まりが行われ、40人が摘発されたが、その中には、市内の大学に通う女子大生が多数含まれていたという。

<参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中