最新記事

ワクチン

「ワクチンは安全」という信頼、日本は世界最低レベルだった

2020年9月14日(月)18時40分
松岡由希子

予防接種への国民の信頼は、ますます重要になっている...... Natali_Mis-iStock

<英ロンドン大学が、ワクチンの安全性や有効性、子どもに予防接種させる重要性についての見解を調査したデータの分析結果を明らかにしている...... >

世界規模での感染症予防において、予防接種への国民の信頼は、ますます重要になっている。世界保健機関(WHO)では、予防接種を受けたり、子どもに受けさせたりすることを躊躇または拒否する「ワクチン忌避」を「世界の健康に対する10大脅威」のひとつとして挙げ、警鐘を鳴らしている。

英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)の「ワクチン・コンフィデンス・プロジェクト(VCP)」では、約10年にわたって、ワクチンに対する世論の動向をモニタリングしてきた。2020年9月10日に医学雑誌「ランセット」で公開した研究論文では、世界149カ国28万4381名を対象に、ワクチンの安全性や有効性、子どもに予防接種させる重要性についての見解を調査した2015年9月から2019年12月までのデータの分析結果を明らかにしている。

日本が低い理由は、子宮頸がん予防ワクチンの安全性への不安か

ワクチンに対する世論は、国や地域によって様々だ。2015年時点で、アルゼンチン、リベリア、バングラディシュの回答者の85%以上が「ワクチンは安全である」との見解を示した一方、日本ではその割合が8.9%と低い。また、ワクチンの有効性についても、エチオピアやアルゼンチン、モータリアで回答者の8割以上がこれを認めているのに対して、日本では14.7%にとどまっている。

matuoka0914b.jpg

2015年11月と2018年11月に「ワクチンが有効であること」に強く同意した回答者の割合 The Lancet, 2020


研究チームでは、日本でワクチンへの信頼が低い原因として、2013年以降に広がった、子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の安全性への不安が関与しているのではないかと指摘している。フィリピンでも、2017年にデング熱ワクチン「デングワクシア」の安全性への懸念が広がったことから、ワクチンの安全性への信頼は、2015年時点の82%から19年に58%まで低下している。

欧州では、このところ反ワクチン運動が活発なポーランドでワクチンの安全性への信頼が下がっている一方、英国、フランス、イタリア、アイルランド、フィンランドなどで、その信頼が高まっている。ワクチンへの信頼が慢性的に低いフランスでも「ワクチンは安全である」との見解を示した回答者の割合が2018年11月時点の22%から2019年12月には30%に上昇。英国でも「ワクチンは安全である」との見解を示した回答者の割合が2018年5月時点の47%から2019年には約52%に上昇している。

政情不安や宗教的な過激思想により、ワクチンに否定的な世論が広がる傾向もある。アゼルバイジャンでは、ワクチンの安全性を否定する回答者の割合が2015年時点の2%から2019年には17%に上昇した。アフガニスタンやインドネシア、パキスタン、ナイジェリア、セルビアでも、ワクチンの安全性を否定する回答者の割合が2015年から2019年で上昇している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中