最新記事

2020米大統領選

「バイデン政権」、外交に関しては内向きなトランプ流継承か

2020年8月30日(日)13時04分

世界各地の元外交高官は、トランプ氏が米国の指導力への信任を大きく損なったと口をそろえる。大統領選挙でバイデン氏が勝利すれば、多くの外国政府が、10年以上前にジョージ・ブッシュ(子)大統領の時代が終わったときよりも大きな安堵の息をつくことになるとも指摘する。写真は20日、米民主党全国大会で演説するバイデン氏。デラウェア州ウィルミントンで撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

トランプ米大統領は2016年に大統領選で選出が決まったほぼ直後から、喜々として、前任のオバマ大統領が注意深く作り上げてきた外交遺産をぶち壊す努力を始めた。

続く数日間で、数カ月、数年間で、トランプ氏はアジア太平洋地域の貿易の枠組みである環太平洋連携協定(TPP)を投げ出し、地球温暖化対策のパリ協定も、イラン核合意も、さらには何十年も続いてきたキューバとの敵対関係をようやく終わりにするプロセスさえ、放り出してきた。

トランプ氏はドイツ政府から日本政府に至る長年の同盟国に対しても公然と攻撃し、一方でロシアのプーチン大統領から北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長まで、独裁支配者を褒め讃えた。ただ、中国の習近平主席に対しては称賛を重ねたあげく、中国政府との貿易戦争と非難の応酬に乗り出し、新たな冷戦の懸念や、軍事的衝突の懸念さえ誘発している。

世界各地の元外交高官は、トランプ氏が米国の指導力への信任を大きく損なったと口をそろえる。今年11月3日の大統領選挙でバイデン前副大統領が勝利すれば、多くの外国政府が、10年以上前にジョージ・ブッシュ(子)大統領の時代が終わったときよりも大きな安堵の息をつくことになるとも指摘する。

元高官らは、民主党政権に代わればオバマ政権時を思わせる政策への回帰に向けて素早く行動が起こされると期待する。まずはパリ協定への復帰だ。

しかし、トランプ氏が世界中に不快感を与えたのは確かだが、同氏のすべての政策の遺産が一気に窓から投げ出されるわけではないし、昔からの同盟国も戦略的なライバル国も、上院議員としても長年外交政策に精通してきたバイデン氏がお手柔らかに接してくれることは期待していない。トランプ氏が標榜した「米国第一主義」によって具現化された米国の内向き志向が、大きく変わるとの期待もしていない。

フランスの元駐米大使ジェラルド・アラウド氏は「われわれはまさに、中国やロシアとの力の外交の枠組みの中で、米国の新たな外交政策を明確にするという移行期にいる。これはまさに新しい世界だ」と話す。「米国の大統領たちはこれから、米国自身の国益へのコミットメントを強めていくだろう。米国はもはや世界の警察官でありたくないし、このことを実はオバマ氏もトランプ氏も理解していると思う」という。

トランプ氏の中国戦争

トランプ政権は中国については最近、新型コロナウイルスの発端から情報窃取疑惑に至るまで幅広い問題で攻撃色を強め、懸念を引き起こしてきた。しかし、バイデン政権が誕生しても、対中政策となれば実質的な変化は少ないとの見方は広く共有されている。

実際のところ、トランプ氏がオバマ氏とバイデン氏について中国に「弱腰」とレッテルを貼ろうとしてきた一方で、オバマ政権は当初、トランプ政権よりも強硬な対中姿勢を追求していたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「チャットGPTが自殺方法提供」、米少年の両親がオ

ワールド

豪のイラン大使追放、ネタニヤフ氏介入が寄与とイスラ

ビジネス

三菱商事、洋上風力発電計画から撤退検討 秋田沖など

ワールド

米首都への州兵派遣、支持38% 党派色鮮明=世論調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中