最新記事

インド

コロナ禍で疲弊したインド農家を、非情なバッタの大群が襲う

LOCUSTS PLAGUE INDIA

2020年6月12日(金)18時30分
ニータ・ラル

ただし殺虫剤の散布は逆効果になりかねないという声が、農家から聞こえている。「経験から言えば、こうした化学薬品は作物を傷つけるだけでなく、バッタを避ける助けにもならない」と、ウッタルプラデシュ州で農業を営むジャグデシュ・プラカシュは言う。「そもそもコロナ禍で苦しい時期に、バッタ対策の費用をやりくりするのは無理。全くのお手上げだ」。彼のサトウキビ畑は昨年、バッタの被害でほぼ死に絶えた。

なぜバッタが大発生しているのか。気象の専門家によれば、地球の気候変動が影響している可能性がある。デリーに本拠を置くNPOの科学・環境センターが2月にラジャスタン州で主催した会議では、バッタの拡散の原因は気候パターンの変化や野生生物の生息圏が狭くなっていることだと、気象の専門家が指摘した。

サバクトビバッタの専門家であるアニル・シャルマは、バッタの大量発生は以前から見られた現象だとしながら、現在の襲来は前例のない「疫病のようなもの」だと言う。シャルマは2月の会議で、2018年5月に起きたサイクロンによって、雨水がサウジアラビアやオマーン、アラブ首長国連邦、イエメン一帯の砂漠に滞留し、サバクトビバッタ繁殖の温床となった仕組みを発表した。2018年10月にアラビア半島を襲ったサイクロンも、バッタの大発生に拍車を掛けたという。

こうして大群となったバッタは餌を求めて東に移動し、パキスタンとインドに接近し、一帯に甚大な被害を与えた。「大群は急激に発生する。分厚い影になり、太陽の光まで遮ることがある」と、シャルマは言う。

「バッタ危機」への即効薬はない。確かなのは、農薬散布やドローンによる対策といった「対症療法」だけでなく、根本的な対応が必要だということ。例えば地球温暖化との闘いであり、そのための技術の開発だ。

金と手間のかかるプロセスではある。国際協調が欠かせないが、何としてもやり抜かなくてはならない。さもないと、多大なツケを支払い続けることになる。このバッタ危機が既に示しているように。

From thediplomat.com

【参考記事】コロナに続くもう一つの危機──アフリカからのバッタ巨大群襲来
【参考記事】新型肺炎で泣き面の中国を今度はバッタが襲う

20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=中東緊張で大幅安、航空株など売

ワールド

日米首脳が電話会談、米関税に関する閣僚協議加速で一

ワールド

日米首脳が電話会談、米関税に関する閣僚協議加速で一

ワールド

国連安保理、13日に緊急会合 イスラエルによる攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 5
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 6
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 7
    メーガン妃がリリベット王女との「2ショット写真」を…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 10
    【クイズ】2010~20年にかけて、世界で1番「信者が増…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中